第5話 彼がスライム好きの理由

 ブラウン達は村人達を前にして偉そうに振る舞っていた。


「おら! 酒持ってこい!」


 そう叫ぶのは武闘家のナオツグだ。

 彼はパーティにいた頃の私に、いつも偉そうに威張っていた。


「すいません、こんな貧乏な村にはこれ以上の酒はありません」

「何だと!? 俺達はお前らのためにスライムを倒しに来たんだぞ!」


 ナオツグは村長らしき人の襟首をつかみ上げ怒鳴りつけた。

 スライムは夜になると村に現れるらしい。

 それまでの間、『社の畜』のメンバーは退屈なのだろう。

 他のメンバーも村人相手にやりたい放題だった。

 力のある冒険者が力のないNPCである村人をイジメている。

 私はスライムよりも、こいつらの方がたちが悪いと思った。


「行きますよ」


 タイガは気にすることも無く、ブラウン達の横を通ろうとする。


「で、でも……」


 戸惑う私にタイガは目を閉じ、こう言う。


「何で僕らが彼らを避けて遠回りしないといけないんですか? 彼らの横を通った方がマウ洞窟に近いんです」

「だけど、また難癖つけられますよ」


 私はもう、『社の畜』のメンバーと顔を合わせたくない。


「遠回りしている間に、スライムが増殖してたら面倒です」


 タイガはズンズン歩いて行った。

 視線は真っすぐ前を向いていて、雑音など気にもしていない様だ。


「おい、そこの雑用係!」


 うわ!

 やば!

 酔っぱらったナオシゲが突っかかって来た。


「無視すんな、コラ!」


 ナオシゲがタイガの肩に手を掛けようとする。


「うるさいな」


 タイガがそう言うや否や、ナオシゲは地面に仰向けになって倒れていた。


「武闘家が素手で雑用係に、転がされたらざまぁないですね」


 す、すごい……。

 目にもとまらぬ早業。

 雑用係という職業は、なんでも出来る。

 雑用というだけあって。

 だけど、魔法も武器も格闘も中途半端だ。

 それなのに、タイガは格闘で武闘家を倒した。


「て……てめぇ……」


 ナオシゲはそう言いつつも、タイガの強さを感じたのか反撃しようとしない。


「これからスライムを倒すあなた達を、傷付けるつもりはない」


 タイガもこれ以上攻撃する気は無い様だ。


「お前、やるじゃねぇか」


 ブラウンがタイガに声を掛ける。


「お前、レベルいくつだ?」

「あなた達に関係ないでしょ」


 冷たく言い放つ。


「俺達のパーティに入らねぇか?」


 ブラウンが手を差し伸べる。

 タイガはそれを無視し、歩き出した。

 私はその後を追う。



「イスタル村からマウ洞窟ってこんなに近いんですね!」


 私とタイガの目の前には、ぽっかりと大口を開けた黒い洞窟がある。

 ここはイスタル村から500mくらいしか離れていない森の中だ。

 タイガはタイマツに火を着けた。

 暗闇に光が灯る。

 火に照らされたタイガがこう言った。


「本当なら、マウ洞窟でのクエストをこなした後、イスタル村のクエストをこなそうと思ってたんです。距離が近いから」


 すごい……

 クエストのはしごだなんて。

 それ程までに彼がスライムに執着する理由って一体……?


つづく

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