2. カンカンぴょんぴょんピッカピカ
私もそれなりに痛かったんですが、妻が──この時はまだ初対面の娘さんですが、彼女が両手で鼻を押さえてぴょんぴょん跳ねてましてね。
この時の私に言ってやりたいです「声を、かけろ、すぐに」とね。「大丈夫ですか?」とか「うっかりして申し訳ない」とかいくらでもあっただろうに。
でも、かけられませんでした。
びっくりしたんです。眩しくて。あんまり眩しいもんで、私が見ているのが本当に人間なのかわかんなくなっちゃったんですよ。
いやいや例え話じゃなくてですね。
彼女は遠い西の方から流れてきたひとでして、全体的に色が薄くて白っぽいんです。髪も磨いた稲藁みたいな色なんです。それがカンカン照りの真っ昼間にぴょんぴょんすりゃあピッカピカに光るってもんですよ。
しかし当時の私はまだ若造で、西方人なんて見るのも初めてで、自分は今何を見ているんだ? 言葉は通じるのか? 話しかけていいのか? という気持ちでいっぱいでした。
そのうち、ぴょんぴょんピカピカしてた彼女も落ち着いてきて、私にもだんだん
あのころ私はちょうど二十歳で、彼女は少し年下に見えました。袖無しの赤い
彼女がしかめっ面の左目を開けます。妻と私の、最初の会話です。
「いたい」
「すいません、よそ見してました」
そしたら間髪入れずに「動かないで」と言われます。
「なんでです?」と返したら「平笠で方角を見てる」と来まして、なんの事やらさっぱりですが、彼女はずいっと近寄ってきた。透き通った琥珀みたいな左目がですね、その視線が私の頭に乗っかった平笠の
「初対面の男に、近づきすぎだと思うんですよね」
「うん、ごめんね。すぐ終わる」
時間にすれば、五つ数える程度だったと思うんですが、彼女は振り返って「あっちか」と確認すると、ちょっと背伸びして私の頭から笠を取ります。
私の頭の両脇に彼女の腕が伸びてきて、ピリピリと頬に痺れるような感覚が走りました。
「はい、ありがとう。動かれたらせっかくの術が狂うところだったよ」
あっけらかんと言って、彼女は平笠をかぶります。
鼻っ柱はちょっと赤くなってましたし、右目もずっと閉じたままです。ぶつかった拍子に
「目、大丈夫ですか?」と尋ねると彼女は「ああ、右目は生まれつき──」と言いかけて、やめました。
「町も離れるし、隠すことないか」と、右目が開きます。
猫の目でした。
カンカン照りの明るい陽射しにキュっと縦にすぼまる、金色の猫の瞳がはまってました。
ギョッとする私に彼女は言います。
「聞いたことある? 西方から来た
「全然ありませんけど──世の中、いろんな人いますね」
私が素直に答えると、彼女はキョトンとなり、きまり悪そうにしてから
「そうだね」
と少し笑いましてね。
これが彼女との出会いです。
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