第10話 第2の人生への船出?

『セカンドシェルターは県下に5ヵ所。ターンエフェクトを向かえた人々の訓練機関として国に認定された施設です。

 ターンを終えた時、人は五感のいずれかを必ず失ってしまいます。先人達はそれを"ロスト"と呼びました。


 しかし、不安になる必要はありません。失われたものがある一方で、得られるものもあるのです。


 "ギフト"と呼ばれる第六感。私達は失われた感覚を、その第六感を鍛える事で代替する事ができるのです。

 シェルターは皆さんのお手伝いが十分にできる設備を整えています。


 もちろん、元来の感覚を完全に再現することは難しいかも知れません。時間も努力も必要です。しかし、最終的には、私達は日常生活を取り戻す事ができるます。

 また、さらに言えば、"ギフト"は失われた感覚を代替するだけに留まりません。


 皆さんは、第六感の可能性をこの施設で見つける事ができます。


 さあ、新しい門出です。


 第2の人生を謳歌しましょう!


 ~ターンエフェクト、新たなる船出~』


 壮大な音楽が鳴って、画面一杯に楽しげな子どもたちが満面の笑顔で映しだされている。


 子どもたちと言うのは、かなり語弊がある。何故なら皆さんターンエフェクト後の姿なのだから。全員が少なくとも80歳は超えている方々だ。


 それでも動画で微笑むのは、5歳位から少年少女というのがピッタリな幼い姿なのだから、人間見た目は重要だなと思う。


 5ヵ所のセカンドシェルターでの様子が画像と共に始まる。

 生活棟、訓練棟、学習館、運動場等。視覚ロスト者用に詳しい解説がついてはいるものの、映像が見えない彼女にとって分かりやすいものかどうか疑問が残る。


 今後の課題だな。今度会議で議題にしてみるか…。


 こそこそと小さな声で2人が話す。

「聴覚施設が一番大きいの?」

「そうみたいだな。ロストが一番多いのが聴覚だからな。視覚施設は二番目だな。」

「そうなのね。」


 そんなに長くない動画は、最後に大きなエンブレムを映し出して終了した。

 セカンドシェルターの紹介動画は毎年変わるけれど、今年の出来は今一つじゃないだろうか。


 "新たなる船出"なんて、何かどこにでも使われているフレーズだけど、一周回って新しいのか…。

 私は動画を止めて、準備していたパンフレットを配った。


「…あまり分かり易くなかったかも知れませんが、いかがでした?」

 何となく申し訳ないような気持ちになりながら尋ねる。


「はい。シェルターの中の様子もわかりましたし、この人から聞くだけより、よかったと思います。」

「そうですか。よかったです。」

 旦那様もうんうんと頷いている。以外と役にたったのかも知れない。


「シェルターの説明を聞いて改めて思いましたが、広いんですね。」


「そうですね。ターンエフェクトを向かえた方々全員の訓練施設ですし、県下から集まって来ますから。しかも6年間はここで暮らす事になりますので、それなりの広さですよね。」


「改めて、うちの人と同じロストでよかったです。同じシェルターに行けますね。」


「そうですね。2人部屋もありますから、ご夫婦であれば一緒に生活できると思いますよ。」

「そうなんですか!」

 彼女の顔がパッと華やいだ。


「あなたがターンエフェクト向かえて以来、ずっと独り暮らししてたから嬉しいわね!」

「…そうか。」


 旦那様、少年の顔で照れてる姿は反則ですよ?本当に、人間は見た目って大事。ニコニコと笑いながら話を続ける2人。


 ターンエフェクト後に、セカンドシェルターでの訓練が義務化されたのは、もうかなり前だったと思う。昔はきちんとした制度がなかったので、ターンを向かえた人達の中には、ギフトを上手く使えずに苦労した人もいたらしい。


 でも、今では制度も万全。ロストの種類で別けられるシェルター生活だが、彼らは同じロスト。同じ場所で生活できる。


(この人たちは大丈夫だな。)


 説明を聞き終えて談話室を出ていく2人を見送りながら、正に、新たな第二の人生の船出だな、と感じていた。


 人生2周目の始まりだからピッタリなフレーズと言えばそうなのか…。

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