第4話 人生2周目の私とかわいい同僚

 巡視の一番最後はカプセルベッドのある観察室と決まっていた。

 今日は5台あるベッドの内、1台だけが稼働している。


「血圧、正常です。」

「はい。血圧正常。」

「酸素2リットル」

「はい。2リットル確認。」

「体温、は、42℃」

「42℃」

「全身状態は…特記なし。」

「はい。異常なし、と。」


 2人で小さな灯りを頼りにカプセル内を覗きこむ。夏美はカプセルベッドで休む『田口なえ』さんを観ながら話を続けた。


「人体って不思議よねー。来た時は確かにお婆さんだったのに、ターンが始まって10時間位たった?」

「そうね。それ位。」

「たった10時間位でもう見た目中年のおばさまって感じ。」

 カプセルベッド内では、確かに60歳後半位の女性が静かに目を閉じている。


「10時間で20歳位は若返ったよねー。教科書通り!」

「そりゃそうでしょ?それがターンエフェクトなんだから。速度が早かったり遅かったりしたら、それこそ当直医呼ばなきゃ。」

「その通り!そんな異常がないかを見極めるのが、私たちのお仕事でした。」

「そうそう。じゃあ、戻るわよ。」

「了解でーす。」


 夏美は最後にカプセルベッドの明かりを最小限にすると、観察室を出ながら小さな声で話かけてきた。


「ねえ、ナナちゃん。」

「ん?」

「田口なえさん巨乳だね。」

「…どこ観察してんのよ。」

「いや、最近さ、カプセル内の患者全裸だからさ、何か目がいっちゃって。」

「確かにね。」


 ターン前後では身体のサイズが全く変わる。ましてや変化中の状態異常は早期に発見しなければならない。ターン中の患者のカプセルベッド管理は全裸にする方針になった、と聞いたのはつい1ヶ月前位だ。


「ふーん。私が前に勤めてた所は何かタオルみたいなのかけてたなー。」

「『ガラス越ししか状態観察できないのに、患者の全身状態が見れないのはおかしいでしょ!!』とうちの上司が院長にかみついてた。」

「うわー。彼女なら言いそう。」

「でもね、ま、この、件については私も全裸の方がいいかなーとは思う。」


 老人から幼児にほぼ2日という短時間で変化するのだから、その間の身体の状態観察は重要だと思う。

 ましてや私たちにカプセルを開ける権限はない。透明なカプセルにせざるを得ないのもうなずける。


「私も、ターン向かえられるかな。」

 夏美がボソボソと話す。

「遺伝もあるってゆーけどさ、人口の5%だっけ?ターンエフェクト発生率」

「私が学校で習った時は8%位だった気がするけど。」

「いやーん。それでもひくーい。田口さん、夫婦でターンなんて凄い確率だなー。」

 夏美はジタバタした。


「で、ナナちゃんの時はどうだったの?」

「…私?」

「うん。全裸だった?」

「…そこ?そんなの昔過ぎて忘れたよ。」

「えー!まだそんなに昔じゃないでしょ?」

「夏美、私の事何歳だと思ってる?」

「うわっ。でた!セカンドの年齢当てクイズ!」


 夏美は大げさに悩むふりをする。実際、ターンエフェクトをむかえた後の人の年齢ほど分からないものはない。そもそもターンする年齢がバラバラな上に、若返りが止まる年齢もバラバラともなれば、正に人生いろいろ。


「で、105歳!」

「ぶー。」

「110?」

「ぶ、ぶー。それは秘密です。」

「いやー。教えてー。」

 夏美の若さが本当に眩しい。もしも人生1周目で子どもを産んでいたら、自分の孫と同じ位の歳なのかな。いや、ひ孫か。そう考えると、そんな彼女と同期の今が、とても不思議な感じがした。

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