第3話 人生2周目。あなたの髪と瞳は何色ですか?

 カタカタカタ


 夜勤帯のひっそりとしたスタッフルームに、コンピューターを叩く音が響く。私は入院カルテへ今日の患者情報を打ち込んでいた。


「へー。今日入院してきた患者?」

 ガチャガチャと注射器の乗ったワゴンを引いてスタッフルームに入ってきた同期の夏美が、後ろから画面を覗きこみながら話しかけてきた。


「そう。」

「どれどれ?『身元保証人1:田口武光、続柄夫、年齢 10歳(セカンド)』か。さっきみた少年セカンドだったんだ。近頃は髪を染めてたり、コンタクト入れてたりするから、見た目じゃ分かんないよねー。」


「そうね。私も話す前はどっちかなって思ってたけど、話し好きな家族だったから、結構早めに分かったよ。」


「『身元保証人2:田口怜子、続柄義母、年齢25歳(セカンド)』おー。あの横にいた色っぽいお姉さんもセカンドだったんだ。いいよね。2周目も謳歌してる感じで。」

「夏美も今年25じゃない。セクシー路線で1周目から謳歌したら?」

「いやー。1周目はかわいい路線で!」


 夏美は大きな目でウインクをして私に投げキッスをよこした。いや、何か違う。それはお笑い路線。


「ナナちゃんはコンタクトとかしないの?髪もナチュラルだし。」

 そう言って夏美は私の髪をフワリと触った。


「染めるの面倒だし。目に異物つけるの違和感しかないから嫌い。」

「ふーん。そっか。でもさ、見た目でセカンドって分かっちゃうと、彼氏出来にくくない?」

「…彼氏」


 夏美は凄く真剣な感じで尋ねてきた。

「そういうのは、もういいとゆうか…。」

 私は苦笑いをしてコンピューターから目線を夏美に移した。


「え?そうなの?2周目ってそんな感じ?1周回って飽きたの?」

 私は、彼女の無邪気な質問に笑いが込み上げた。

「いや、個人差はあると思うよ。いくつになっても性欲旺盛な人もいるじゃない?」

「大和先生!!」

「夏美、声。」


 夏美は「しーーー!」と人差し指を口に、周りを見渡して笑いながら言った。

「ワタシ、声デカイ。ダメ。」


 私の瞳は青い。いや、むしろスカイブルーに近い。髪は真っ白だ。

 白い髪と瞳の色が変化するのは、ターンエフェクト後に誰にもみられる特徴であって、私は大して気にしたことはない。

 むしろ、1周目の黒目黒髪だった時と全く違う今が、変身した気分がして好きだ。


 けれど最近は、セカンドであることを隠す為に髪を染めたり、コンタクトを入れて瞳の色を変えている人も多い。まあ、単純に嗜好やおしゃれの為にという人もいるから何とも言えないが。


 さらに言えば1周目の黒目黒髪を変える人だって普通にいるし。多様性というやつだろう。


 先程の入院患者の家族、少年の姿の彼と色っぽい彼女は、髪を黒めに染め、瞳にもコンタクトを入れていた、のだと思う。

 姿形だけでは、本当に彼らが1周目なのか2周目なのかは、判りづらい。


「さて、じゃあ、定時になりましたので病室の巡視にいきますか!」

「はいはい。今日はターン初日の患者様がいらっしゃるので、しっかりよろしくお願い致します。」

 私たちは笑いながらも、仕事上の気合いを入れ直し、静かになった夜の廊下に出た。

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