第2話 ターンエフェクトという症状~患者と家族。あなたたちはいくつ?~
「まだ処置が終わってなかったの?」
「遅くなりました。すみません。」
「…。」
私の上司さまは、ハァという感じて私を睨んでいた。
「もっと効率を考えて動きな…」
「分かりました。以後気を付けます。申し訳ございませんでした。」
「…。」
彼女の言葉が言い終わらないうちに、感情のない表情で謝罪を述べ頭をさげる。
「…。はぁ、いいわ。新しい入院患者さんがいらっしゃってるから、205号室」
「はい。」
私は、新しいファイルの患者情報に目を通しながら、今から入院手続きを完了させる為に病室に向かった。
『氏名 田口なえ
年齢 86歳
病名 ターンイフェクト
症状 発熱による意識混濁。一週間程度前
より徐々に視力低下し、昨日よ り何も見
えないと訴えあり』
(…普通だな)
一通り患者情報を頭にいれる。
病室に近付くにつれて、複数人の声が聞こえてきた。必死に何かを話す子ども、年配らしき男性、若そうな女性の声。入院患者の家族だろう。
「だから、心配ないって。」
少しイラついたような男性の声が静かな廊下に響いた。
「…。言われなくても分かっている!私だって既に経験している事だ。誰より分かる!」
「武光うるさい。看護師さんいらっしゃったから。」
私が病室に近付くと、長い髪をキレイにまとめた女性が、全ての会話を終わらせた。
「すみません。病院なのにうるさくして。」
「いいえ。皆さんご心配でしょうから。」
上司に向けた表情とは、全く真逆の笑顔で答える。
「ほらみなさい!あんたたちうるさいのよ。」
スパーンという音が聞こえるレベルで、彼女は横にいた武光と呼ばれた男性の背中を打った。
「ばーちゃん力強すぎ。」
年配の男性が先程の少しイラついた感じから一変、少しからかうように笑いながら言った。
(仲のいい家族…。)
私は彼らのそんなやり取りを聞きながら、入院患者の側に近付いた。
体温計で熱を計る。目はうっすらと開いているが、呼吸は荒い。
ピッという音と共に瞬時にして画面には『41.5℃』と表示された。
(ターンが始まってるな…。)
私は彼らの方に向き直ると、一番年上であろう女性に話しかけた。
「今から先生から症状のご説明があります。既に昨晩から高熱が出られてましたか?」
「いや。昨日はまだそこまでは。」
「そうですか。今の体温が41℃を超えていますから、今日がターンの初日かも知れませんね。詳しくは先生の診察後にお話がありますので…。」
「…あの。」
かなり小さな声で、女性の後ろから心配そうな少年が尋ねた。
「妻は熱が出る前から目が見えなくなったようなんですが、ロストは視覚でしょうか?」
「…そうですね。ご本人が見えなくなったとおっしゃっていた、と言うことですよね?」
「はい。」
「詳しい診断は先生からお話がありますが、視覚の可能性は高いと思います。」
(ふぅ…)
少年が少し安堵したように小さなため息をついた。
「良かったじゃない?父さんと同じロストで。ターン終わったら、又一緒の時間が過ごせるじゃん。青春やり直して、いろいろ教えてやったら?」年配の男性が笑いながら言う。
「お前は、またそんな!!」
「はい、はい。もういいから。でも、夫婦でターンエフェクトを向かえられて、さらに同じロストかもしれないなんて、凄く幸運よ。」
「…。」
3人はまたガヤガヤと話を続け出した。
「すみません。ではこちらにいらっしゃっていただけますか?先生をお呼びしますので。」
「すみません。またうるさくて…。」先程より少し明るい声。86歳"田口なえ"の夫であろう武光がペコリと頭をさげた。
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