第13話  幼少期③

『先生、それはどういう事ですか?颯斗の時だけって。』私は怒りで持っていた携帯を強く握りしめた。

『実は颯斗さんの時に、一緒に餌やりをしているお子様がトイレに行きたいとか、なかなか起きないお子様が居たりとかで。颯斗さん、とてもしっかりしていらしたので、先生たちも颯斗さんに餌を渡して一人でお願いするような事もあったりしまして…。』

『だからといって颯斗が魚に何かしたのを見たんですか?』

『実は少なくなってから先生たちで毎日確認する事にしたんです。そしたら颯斗さんの当番になると一匹ずついなくなるのが分かりまして。そこで颯斗さんが餌を上げる時に様子を見ようとなりまして…。』

先生は颯斗の行動に驚いたと言う。颯斗は水槽のゴミを拾うネットで魚を掬い、ポケットに入れていたハンカチに魚を包んでいた。その包んだ魚を何処に持っていくのかと先生が颯斗に見つからないように後をつけていくと、トイレに入ったと言う。

幼稚園のトイレは子どもの背の高さ程度しかドアの高さがない為、大人は上から子どもの安全を確認する事が出来るようになっている。トイレに入り鍵をかけてポケットからハンカチを取り出し広げ、生きた魚を便器に落とし。、便器の中でまだ動いている魚を数秒眺めた後、そのままレバーを下げて流してしまったとの事。その場に居た先生は手で口を押さえ、言葉を失ってしまったらしい。颯斗は何事もなかったようにトイレから出てきて、ドアの傍に立っていた先生に

「ちゃんと流したよ。」と魚ではなく尿を流したような口ぶりで、その場を後にし部屋に戻って行ったとの事。便器の中を見た先生がそこにはもう魚がいない事を確認した。この事を園長に話、園児が帰った夕方に緊急に会議を開いたと。先生方も颯斗が何故、このような行動をしたのか色々な面で考え、もしかしたら颯斗が魚を逃がすためにトイレに流したのではないかと考えたらしい。しかし、それならば先生方に「逃がしたい」とか「可哀そう」とか言ってくるのではとの意見もあり、颯斗のこの行動に違和感を覚えたと。

今は魚を掬えるネットを職員室で保管し、餌当番も必ず先生が付き添い見守る事を徹底し対策をしているとの事。だが、一応、ご家族には話しておこうと会議で決まったので連絡してきたと言う事だった。


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