第10話

 俺は瑠美子の出産から育児休暇を取得していた。颯斗の幼稚園も来年なので、産まれたばかりの優斗を見ながらの颯斗と過ごすのは大変だと思う。俺は、子どもは二人で協力して育てていくものだと思っている。だから育児休暇を申請するのに何の抵抗もなかった。親父達は

「親を頼れ。母さんが颯斗の面倒を見てもいいんだぞ。」と言ってくれていた。その申し出はとても有難い。でも俺達には俺たちなりの子育てをしたいと瑠美子と決めていた、だからなるべく二人で頑張ろうと決めた。


寝室のドアが開き、目を擦りながら颯斗が起きて来た。

「おはよう。颯斗、一人で起きて来たのか?偉いぞ。おしっこ行こう。」颯斗をトイレに連れて行く。最近、ようやくオムツが取れた。でも自分からトイレに行く習慣がまだ身に着いていないので油断できない。用を済ませてリビングのテーブルで颯斗と二人で朝食を食べ始めた。ここ最近は、毎日このパターンが日常になっている。瑠美子は優斗のミルクやオムツ替えが夜中にあるので、今は優斗とゆっくり寝ている。

「颯斗、ご飯食べ終わったら公園行こうか?」

「うん。」颯斗はまだ少し赤ちゃん言葉が残っているが、簡単な言葉は言えるようになっていた。外に行く準備をしていると瑠美子が寝室から優斗を抱いて出てきた。

「おはよう。公園行くの?」

「あぁ。優斗も起きたのか?」

「うん。今はご機嫌いいみたい。」とリビングに置いてあるベビーベッドに寝かしつけた。

「ママ、おあよう。」颯斗が瑠美子に抱き付いて挨拶した。

「颯斗、おはよう。パパとお出かけ行くの?」

「うん。いってきましゅ。」

「はい。行ってらっしゃい。楽しんできてね。」

「うん。」俺と颯斗は近くの公園に行き、滑り台や芝生でボール遊びをした。

最近の颯斗のお気に入りの遊びは虫を観察する事だった。公園に行って滑り台やボール遊びは二、三回やると飽きてしまい、公園の周りの植木に行き、蟻やダンゴムシを眺める時間の方が長かった。俺の中では、颯斗は親父がなって欲しいと思っているスポーツ選手ではなく、昆虫博士や学者の道にいくのではないかと思ってしまった。俺は、それはそれで良いんじゃないかと思っていた。親父には申し訳ないが、颯斗が好きな事を仕事にすればいいと考えていたから。ただ、

「颯斗、お昼になるから帰るぞ。」そう声を掛けても返事もしない。毎回そうだった。聞こえていないとは思えない。物凄い集中力で虫を追いかけている。俺の声や姿は、今の颯斗にとっては虫以下って事なのかと思うと寂しく感じた。最後には、強行突破するかのように抱きかかえて、無理やり俺の方を向かせる。

「颯斗、お昼だから。ママも優斗もお腹空いて待ってるから帰るよ。」急に視界が虫からパパになってキョトンとしていたが

「うん。」と素直に返事をしてくれた。毎日毎日、同じような行動をする颯斗に、この時は特に何も感じなかった。むしろ、将来は虫博士かもなんて期待までしていた。この行動はのちの始まりになっていたとは俺も瑠美子も、この時は分からなかった。

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