第9話

二人目の妊娠も瑠美子の悪阻は変わらずに酷かった。颯斗の面倒を見ながらだったので余計大変だったと思う。俺が有給を使い颯斗と一緒に過ごしたり、休めない時はお袋やお義母さんの助けを借りて、無事に二人目の息子「優斗」を出産した。


「乾杯」と親父の掛け声で皆がグラスを持ち、「乾杯」と言いながらグラスを掲げた。

「退院おめでとう、浩司、瑠美子さん。」

「ありがとうございます。」

「ありがとう。また男だけど可愛い孫が増えたので、皆さん、宜しくお願いします。」俺は立って両親たちに挨拶した。

「浩司君、男の子二人、将来、何をしてほしいとかあるのかね?」とお義父さんに聞かれた。

「いや、まだまだ二人共小さいので、とにかく健康に育って欲しいですね。大きくなったら自分たちで目標見つけてくれれば、俺はそれを応援するだけですよ。」

「浩司さんは良いお父さんになりますね。」

「いや、お義母さん、そんなに褒められるような自分じゃないですよ。」

「俺は野球選手かサッカー選手にしたいなぁ。」親父が突然言い出した。

「何で親父が決めるんだよ。父親の俺は子どもの意見を尊重するって言ってるのに。」

「俺はお前もスポーツ選手にしたかったんだ。けど、お前は高校入った途端に野球辞めてよ。俺は甲子園に行けるかと楽しみにしてたのに。」初めて親父の思いを知った。

「悪い。それについては申し訳ない。まさか親父がそこまで思っててくれたとは、あの頃は分からなかった。でも俺は俺でやりたかった事を見つけたから。」

「お父さんも、もういいじゃないの。折角の優斗と瑠美子さんの退院祝いの席で。楽しく食事しましょ。ごめんなさいね。雰囲気が台無しね。」

「いやいや、親父とは男の子に自分が出来なかった夢を注いでほしいと思うものですよ。家は女のコだったから。男の子だったら自分も同じように期待してたと思いますよ。」とお義父さんがこの場を慰めてくれた。

「そうそう。ケーキが買ってあるから皆で食べましょ。颯斗、おばあちゃんと一緒に冷蔵庫に取りにいきましょ。」とお義母さんが颯斗に声を掛けると、颯斗も「ケーキ」の言葉に喜んで冷蔵庫に走って行った。

「お義父さん、もし颯斗か優斗が野球選手かサッカー選手になったら、皆で一緒に応援に行きましょう。後、十五年。いや、もしかしたら二十年後かもしれないですからね。それまで健康で長生きして下さいよ。」と瑠美子が親父に言った。

「そうだな。颯斗と優斗が活躍するまで頑張らないとな。そう考えたら楽しくなってきた。皆で甲子園に行こうじゃないか。それとも国立競技場か?二人居るんだから両方いけるかもな。颯斗が野球で、優斗がサッカーとか。逆でもいいな。」と親父が一人で盛り上がっていた。

「親父を慰めてくれたのはいいけど、子ども達に負担がかかるじゃないか。」俺は瑠美子に近づき耳元で言った。

「いいじゃないの。これでお義父さんも生き生きと生活出来るんだし。楽しみがある事は良い事よ。もしかしたら本当に甲子園か国立競技場に行くかもよ。」と含み笑いをした。おいおい、親バカと爺バカじゃないか、と俺は溜息が出た。でも、この場を和ませてくれた事には感謝している。

その後は皆でケーキを食べたり、優斗を順番に抱っこしたり、颯斗と遊んだりして楽しいひと時を過ごした。

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