第7話

 瑠美子と颯斗が退院してから大変だった。初めての育児ということもあり、授乳の間隔やオムツ交換のタイミングとかを理解するのに時間がかかった。それでも首が座る頃には、夜泣きの時間も決まってきていたので交代で起きてミルクを上げ、オムツ交換をしていた。毎日、少しづつ成長している我が子は可愛かった。

 休日の昼間に颯斗の子守をするのが俺の日課になっていた。

「颯斗、今日は何して遊ぼうか。」と颯斗の隣で横になり、話しかけた。颯斗は笑顔で俺の顔を触ろうとしているのか、手を上から下に何度も動かしていた。

「早くパパって言ってくれないかな、颯斗。パパ、パパ。」と話しかけていると

「話すのはまだ先よ。」と洗い終わった洗濯物を持ち、ベランダの扉を開けようとしていた瑠美子に言われた

 毎日、成長する颯斗を見ていると、子どもを育てるとは責任重大だと感じた。親の行動がそのまま子どもに伝わるので、反面教師にならないようにしなければいけないと実感していた。

 俺と瑠美子の子育て奮闘中に孫に会いに来る親父やお袋、瑠美子の両親にとって颯斗の立ち位置は俺達、子どもよりも遥かに上になっているように思えた。両家共に暇を見ては、我が家に足を運んで来た。来る度に颯斗に何かしらの土産を持ってくる。家はマンションだから、そんなに持って来られても狭くなると毎回言うのに、親父は

「お前に買ってきたわけじゃないから、いいじゃないか。何なら颯斗をじぃじの家に住まわせてもいいぞ。」なんて言いながら颯斗を抱っこしていた。

「お袋も親父に何か言ってくれよ。そんなにお金使わなくていいからさ。」

「あらっ。別に家に来てもいいわよ。颯斗の面倒は私たちがちゃんと見るから。」とこれまた親父を上回る返事が返ってきた。俺と瑠美子は顔を見合わせて苦笑した。

 また別の日には「ただいま」と玄関を開けると、中から楽しそうな会話が廊下まで響いていた。恐る恐るドアを開けると、瑠美子の両親が颯斗と遊んでいる。今日はこちらの祖父母がいらしていたんですね、と落胆する。が、そんな顔は義理の両親には見せられないので、

「お義父さんもお義母さんも来てたんですね。」と声をかけた。

「おぉ、浩司君。お帰り。お邪魔してるよ。」と颯斗を胸に抱えながらお義父さんの顔は笑顔が溢れていた。俺にはそんな笑顔を見せてくれた事ないのに。孫の力って偉大だ。颯斗、お前って凄いな。と心で思った。キッチンでは瑠美子とお義母さんが夕飯の支度をしていた。

「お帰りなさい、浩司さん。デパートでお惣菜買ってきたから、皆で食べましょ。」

「いつもいつも、ありがとうございます。お義母さん。」義理両親が家に来るときはいつもデパートで颯斗の服や玩具を購入し、デパ地下で食事を買って来てくれる。瑠美子の家事への負担を軽くしての買い物なんだが、俺はこの食事は未だに慣れないのが事実。まぁ、これはどの家の旦那さんも同じ思いしているのではないかと思う。

 よく孫は目に居れても痛くないと言う言葉があるが、今の親父達を見ていると、本当にそんな感情になるんだろうなと思った。

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