第4話
佐久間の話では、瑠美子が俺に好意を寄せ始めたのは最近の事らしい。毎日の他愛無いメールが瑠美子の中で大切な時間になり、俺の存在が欠かせないものになっていると気づき始めたと佐久間に相談してきたという。
「ん?ちょっと待て。俺の事なのに、なんで佐久間に言ってんだ?」
「馬鹿だなぁ、お前も女心を解れよ。」と溜息を付かれた。
「畠岡に直接言える訳ないだろ。もしも好きですとか言って、お前が瑠美子の事を好きじゃないってなったら、今度こそ瑠美子、立ち直れないだろ?そうなるのが怖いから、どうしたらいいか、俺に相談してきたんだと思うぜ。」
「なるほど…。」
「なるほど…じゃないよ。本当にお前は天然だよな。」その天然って言葉を言われるのが好きではなかった。特に同期の佐久間に言われると余計にそう思ってしまう。
「それで、お前はどうなんだ?瑠美子の事。」佐久間の言葉に『天然』で少し怒り気味だった頭がスッと白くなったようだった。白かった頭の中に『瑠美子』が入った途端、赤く染まった感覚になった。それは顔にも出ていたようで
「おい、顔が真っ赤だぞ。」と佐久間に指摘されて気付いた。
「なぁ、俺、どうしたらいい?」
「瑠美子にきちんと思いを話せばいいと思う。瑠美子も応えてくれるよ。」佐久間のくせに良い事いってくれるじゃん、と初めて佐久間を見直した。
俺は瑠美子を誘って食事に出かけた。その時に俺から告白し付き合ってほしいと伝えた。瑠美子は目に涙を浮かべながら「お願いします」と受け入れてくれた。
その後、1年の交際を経て、俺たちは結婚した。結婚式でスピーチを頼んだ佐久間が一番、号泣していたと思う。そんな佐久間につられながら俺達も泣いた。佐久間のお陰で瑠美子と結婚することが出来たと感謝している。だって俺は入社当時から瑠美子が好きだったんだから。
新婚生活は今までと特に大きく変わりはなく、瑠美子もそのまま仕事を続けていたので、お互いが出来る家事を分担して助け合いながら生活していた。
そんな中で突然の知らせだった。
いつものように他愛無い会話をしながら夕飯を食べていると
「見て欲しいものがあるの。」と言いながら、瑠美子が立ち上がり引き出しから何かを取り、俺に見せた。棒のような物に線が2本、入っていた。それを見せられても俺には何だか解らず
「これ何?」と首を傾げながら瑠美子に聞いた。瑠美子はふふっと笑いながら
「佐久間君が言ってた事は本当ね。」と言いながら
「私たちの子ども。」と告げた。俺の頭の中で瑠美子の言葉を整理するのに時間を要した。どれくらい瑠美子を見つめていただろうか。
「聞いてる?」と瑠美子に言われて、やっと我に返り
「本当に?いるの?お腹に?」と声が震えてしまった。
「いるよ。まだ病院できちんと診てもらってないけど。」俺は瑠美子を抱きしめた。
「ありがとう。ありがとう。」何度も何度も伝えた。
「二人で大切に育てようね。」
「あぁ、もちろんだよ。瑠美子もお腹の子も大事にするから。」俺は心に誓った。
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