第2話

「瑠美子、飲んでるのか?」俺は自分のビールグラスと瓶ビールを持って、瑠美子の隣に座った。瑠美子は同じ部署の人達と話していたが、俺が声を掛けると振り返った。いつも元気だけど、酒が入っている事もあって更にテンションが高かった。

俺の肩に手を置きながら

「あらっ。畠岡君じゃない。久しぶりね。」満面の笑顔だ。まして酒が入っているのでほんのりと頬が赤く染まっていた。可愛い。仕事場で見ている時の瑠美子と違う一面を見れた。危うく、好きと言う感情が表に出てしまいそうだった。

「ビールでいいか?」俺は瑠美子のグラスにビールを注いだ。

「ありがとう。畠岡君もどうぞ。」俺の持っていた瓶ビールを取り、グラスに注いでくれた。お互いにグラスを合わせ

「乾杯。」俺はコップの中のビールを飲みほした。

その後は、お互いの抱えている仕事の話で盛り上がった。そんな時、俺の目線の先に佐久間が見えた。佐久間が目で合図していた。

『早く本題に入れ』そう目が言っていた。

「なぁ、瑠美子。彼氏と別れたんだって?大丈夫か?」周りに聞こえないように静かに話しかけた。すると、瑠美子が手に持って今、食べようとしていた枝豆が口に入る前に止まった。そして枝豆は食べられる事無く、ゆっくりと下がっていった。

「佐久間君に聞いたの?」今までのテンションが嘘のように静かに話し始めた。

「あ、あぁ。」

「そう。先日、佐久間君に泣いてる所見られて。つい、話しちゃったのよね。」

「ごめん。瑠美子が傷ついてるのに、聞いちゃって。」

「いいよ。」そう言いながら、ゆっくりと持っていた枝豆を食べた。

「大丈夫か?俺で良かったら話聞くけど…。」

「ありがとう。」お互いのグラスにビールを注ぎ、飲んだ。

瑠美子の彼氏が他にも何人かの女性と付き合っている事が分かったのが、先月の事。彼氏の中で瑠美子の存在が一番では無かったと知った時は、どん底に落とされる衝撃を受け、仕事中は考えないようにしながら、やっとの思いで何とか仕事を終わらせる毎日を送っていた。暫くして資料室に用事があり資料を探している時、ふっと思い出して泣いてしまった。その時に佐久間が入ってきて泣き顔を見られてしまい、つい話してしまったとの事。今はだいぶ落ち着いてきたから大丈夫と話していたが、話している最中も思い出してしまうのか白目が赤くなり、目に涙が溜まっているのが見えた。

「思い出したくない事を思い出させて、ごめん。」

「いいよ、気にしないで。」そう言いながら瑠美子が笑顔を見せたが、いつもの表情とは言えない、無理して作っている顔に見えた。


 それから俺たちは頻繁に連絡を取り合うようになった。と言うよりも瑠美子が家で泣いてしまうのではないかと思い、気が紛れるように毎日のようにメールで会話をした。何て事ない他愛ない会話を送り合っている日々が数ヶ月経った。


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