夜・猫・光

世の中が少し寂しさと気だるさを孕んだ三連休最後の夜。時刻は日付も変わるような頃。世間は休み明けの仕事に向けて寝静まった夜に一人コンビニから出てくる青年。袋の中には弁当と酒、つまみなど。

「3連勤終わりだからって買いすぎたかね…。」

飲食業でアルバイトをする彼にとっては三連休に休みはない。むしろ普段より忙しい3日を終えた彼はいつもは買わないスイーツなんかも買って帰路を急ぐことにした。

「こっち通るか…。」

少し細い路地を自転車で走る。ところどころに置かれた街灯が彼の影を伸び縮みさせる。なんとなくいつもよりゆっくりと自転車を漕ぐ。すると少し前の街灯の下で人がしゃがんでいるのが見えた。こんな時間になんだ、まさか緊急事態か?少し気になってしまった。近づいて声をかける。

「あの、大丈夫ですか?」

人影はこちらを振り向く。可愛らしい女性だった。酒でも飲んでいるのか少し顔が赤く、目が潤んでいる。なんだか少しドキッとしてしまう。女性は彼の顔を見て人差し指を口元に持っていった。

「しーっ。」

真剣な目をしてこちらを見て奥を指さす。彼女で影になって見えなかったが彼女の奥に猫が座っていた。

「猫ちゃんが逃げちゃうから。」

そう言って猫に手を差し出す。しかし猫は素知らぬ顔で顔を洗っており「かまってよー。」なんて言っている。なんとなく彼も自転車を止めて猫に手を差し出す。口でチッチッと音を鳴らすと猫が青年の方を見た。そして下から手を差し出すとゆっくりと猫がこちらに近づいてきた。そのまま猫の顎を撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。

「す、すごい…。猫使いだ…。」

と横から声がする。目を輝かせて青年と猫を見る女性は、少し羨ましそうに唸っている。

「下から手を出すと警戒されませんよ。今なら多分大丈夫のはずです。」

「本当!?」

そう言って女性がゆっくり手を伸ばす。猫はちらりとそちらを一瞥したが大人しく撫でられる。すると女性がふおおお、とさらに目を輝かせた。


しばらくして満足したのか猫から手を離してこちらを見る。

「ありがとう!結構苦戦してたんだよー。」

そう言って笑う女性は街灯に照らされてとても綺麗だった。

「いえ、たまたま知っていたので…。お邪魔かとも思ったんですけど。」

「いやいや!私も猫ちゃんも楽しかったよ!」

ねー、と猫に笑いかける。そのタイミングでぐーと言う音が聞こえた。青年のものじゃない。となると出どころは一つだ。女性は元々赤かった顔をさらに赤くしてへにゃりと笑った。

「これはお聞き苦しいものを…。」

「いえ、大丈夫です。」

少し笑ってしまう。なんとなくもう少し話したいと思ってしまった。連勤明けで自分も少し気分が良かったのかもしれない。

「差し出がましいかもしれないんですけど、送りましょうか?もうかなり深夜ですし…。いやでもこれじゃ俺が変な人か…!?」

なんて一人でゴニョゴニョやっているとくすくす笑って

「お願いしたいけど実は電車なくなっちゃって困ってたところなんだよねぇ。」

と言って楽しそうに笑う。楽観的な女性であったが青年はそうではなかった。

「え!?朝までどうするつもりだったんですか!流石に危なすぎますよ!」

あくまで一般的な青年の主張に反して女性はさらにとんでもないことを言い出した。

「野宿かなぁ?この辺泊まれるとこないし。」

なんなんだこの人は。頭を抱える青年に女性はさらにとんでもない爆弾を投下した。

「じゃあ!君の家に泊まらせてよ!」

これは青年と女性のなんでもない出会いの話。


翌朝青年の自宅で女性は人生初の土下座をしたとかしないとか。

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