森・問題児・夕焼け

ど田舎の古い校舎。周りは森に囲まれ、ご近所さんは歩いて十分以上。コンビニはもっと遠いし近くにゲームセンターとかカラオケなんてない。小さな駄菓子屋とカフェが一つずつ。電車は一時間に一本だしバスもそんな感じ。ここが私、深崎燐の生きる場所。それは変わらない。こんな森しかないところに引っ越してきてはや2年。今はスマホがあるから娯楽には困らないけどそれでもやっぱり退屈だ。都会からきた私は学校でも何か浮いてるし友達も少ない。でもあと一年。大学になったら一人暮らししてでも都会に行くんだ。

新学期が始まり1週間、一人学校へ向かい席につく。ヘッドホンは外さずそのまま机に突っ伏して寝たふりをする。生徒数の少ないうちの学校ではクラス替えもない。だから私に話しかけてくる人はいない。今日も静かに授業を受け、真面目に勉強し、何事もなく今日を終える。そして優秀な成績を収めて絶対いい大学に行かないと。そうやっていつも見たく自分を納得させる。いつものことだ。だけど今日は違った。周りがいつもよりざわついている。ん?私を見てる?周りをチラチラ見るとみんなこちらに顔を向けていた。私が思わず顔を上げるとそこにはクラス1の問題児、林道明音が立っていた。女っぽい名前とは裏腹にいろんな噂が立っている男でヤクザを一人で壊滅させたとか出席日数が足りていないのを教師を脅して進級したとかそんな根も葉もない噂が多数ある。そのせいか私と同じでクラスでも浮いている人だ。その人が今、私の目の前に立って私を睨んでる。やば、目が合った…。

「   」

何か言ってる。ヘッドホンで聞こえないし知らないふりしようかな…。そう考えていたのにガバッとヘッドホンを取られる。

「なあ、お前!」

え?なに?何この人怖い!

「なあって!」

「はいっ!なんですか!?」

あっ、大きい声出しちゃった。みんな見てる…。怖い…。逃げなきゃ…。

「ちょっといいか。」

そう言って私の手を引いて走り出す。えええ?ほんとに何?早すぎて何もいえない!運動してない奴には速い!

気づけば学校を抜けて校門の外の道にいた。そこで林道は止まった。

「すまん、目立たせたな。」

謝るならやらないでよ…。怖いから言わないしそれそれどころじゃないけど。私がゼェハァ言ってるとスタスタと林道くんは歩いて行ってしまう。え、ここまできて置いてくの?何どういうこと?私が必死に息を整えていると林道くんが戻ってきた。

「大丈夫か?これやるよ。」

と言ってペットボトルの水を差し出してくれた。

「あ、ありがとう。」

突然すぎてついていけない。でも謝ってくれたり水をくれるのは聞いてた話よりかはいい人なのかも…?

「あ、お金…。」

「いや、いいよ。きてもらったし。」

きてもらったっていうか連れてこられたんだけど。

「見て欲しいものがあったんだ。きてほしい。」

何かすごく思ってたより静かだし、優しい口調だ。それに見て欲しいものって?それに授業が…。でもなんか断るのも怖いしな…。仕方ないか…。ズル休みなんて成績に響きそうなのに。まぁいざとなったら脅されたとでも言おう。頷いてついていく。

森の方まで歩いてきた。一人じゃ帰れなさそうだ。まあ怖いしどうせ逃げないけどさ…。そこには小さな古屋があった。何だろうこれ。

「ここ。うちの倉庫なんだけど改造して俺の部屋みたいになってる。入って。」

そう言って中に招き入れられる。もうこうなったら行くしかない。

中は意外と綺麗だった。ハンモックとかちょっとボロいソファとかなんかいろんなところからかき集めたって感じ。

「汚いけどごめん。一応電気もあるんだ。座って。」

そう言って比較的綺麗なソファに座るよう言われる。緊張しながら座ると向こうから林道がお菓子を持ってきてくれた。

「それで林道くん、話って…?」

早く要件を終わらせて帰ろう。

「これ、見て。」

そう言って指さした方には古ぼけたピアノがある。

「あれこの前見つけたんだ。直したんだけど引けなくて。深崎…さん…?いつもヘッドホンしてるし弾けるかなって。」

何だその理由。ほんとに怖い人なのか…?それに…

「ごめん私ピアノ弾けないんだ…。」

すると林道があからさまにがっかりして

「そっか、音楽好きでも弾けるとは限らないよね…。ごめんまた早とちりした…。」

「いえ、大丈夫です…。あと、またって…?」

「俺、思いついたことすぐやっちゃうんだ。落ちてるもの見つけて拾おうとしたら怖い人に囲まれたり、授業忘れちゃったり…。よくあいつから注意されてるんだけど…。」

「そ、そうなんですね。」

なんか、噂の裏を見た気がする。あとあの人って誰だろう。

「本当にごめん。お詫びにもならないかもしれないけど、ここ自由に使って。今あと二人ここを知ってるんだ。」

え、いきなりすぎる。私は平穏に暮らしたいだけなんだ。でも、もし、退屈な日常が、このつまらない日々が変わるなら、それもいいかもしれない。でも、どうしよう。そうぐるぐる考えているとドアが空いた。

「ヤッホー、きたよー。」

「おい明音、また授業サボっただろ。」

ゆるっとした女の子とキッチリとした感じの男の子だ。二人とも同じ高校の制服を着てる。というかクラスで見たことある。不思議系女子の東雷火さんと学級委員の桐谷悟くん…。がここを知ってる人?何このメンバー…。

「ん?君は深崎さん?なぜここに。あ、お前またやっただろ。」

「そうなんだ。本当に申し訳ないからここを使っていいって言った。」

「はぁ!?いいのか?深崎さんはそれで!」

「じゃあうちらこっからトモダチだね〜。私のことはライって呼んで〜。」

「あ、俺も明音でいい。」

「おい明音!はぁ…じゃあ僕も悟でいい。嫌なら断ってくれても構わないからな。」

とんとん拍子に話が進む。この人たちはどこまでも私に委ねてるんだ。どうしよう…。

「あの…私がいてもいいんですか…?」

「俺は嬉しい。人がいたら楽しいから。」

「あたしも〜。女の子増えたら嬉しい〜。」

「僕も君みたいな真面目な人がいると嬉しい。この二人は一人じゃ見切れないからな…。」

全員が認めてくれるんだ。この人たちなら本心を出してもいいのかな…。

「じゃあ、あの、よろしくお願いします!」

私の生活はここから大きく変わる、のかも。

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