ハグ・ペンダント・美人局

夜の街、ギラギラと輝き照りつけるネオンライト。煌びやかな光に包まれ、多くの艶かしい美女が男を狙い目を光らせる。まるで蝶のごとく美しく舞い、炎のように舞い、馬鹿な男は飛び込んでいく。ここは夜の街。夜に隠れて醜く美しく嗤う。しかし、強い光の影には深く、暗く、黒い闇が潜んでいる。


「ええぇ!あの企業の方なんですかぁ?すごーい!」

鬱陶しい。営業のためとはいえこんな低俗なところにいなきゃいけないなんて。なんであのおっさんたちは何がそんなに楽しくて大金を落としてるんだ?ありえない。ああ、早く帰りたい。

「すみませーん、こっち交代お願いしまーす。」

「あっ、はーい!じゃあお兄さんまたね。…次に来る子、怪しいから気をつけてね。」

俺についていた女が他のテーブルへと移る。最後に何か意味深なことを言っていたが何だったんだ?まあ関係ない。

そんな俺の浅はかな思考はあっさり打ち砕かれることになる。その女はすぐに俺の脳内をぐちゃぐちゃに掻き乱してきた。特別美人だとは思えない。だが不思議と引き寄せられる。まるで強い光に引き寄せられるようだった。ありえない。こんな女他にいるわけがない。本能も理性も、体の全細胞がそう叫んでいる。俺は必死になった。今までとはうって変わって必死に話しかけた。自分のことを知ってもらいたかった。彼女を知りたかった。少しでも時間が惜しい。その日だけでは足りなかった。何度も店に足を運んだ。彼女はミツキというらしい。彼女はあまり自分のことを話さない。その代わり色々な話をした。意外にも彼女は博識だった。彼女と話す時間が生き甲斐だった。彼女と話すためなら何でもした。いくらでも貯金を崩した。そのうち彼女は個人的な連絡をしてくるようになった。店以外でも話すようになった。彼女が食べたいといえばどんなに高級な店でも連れて行った。どんなものでも買ってやった。そのうちに貯金も無くなった。彼女が前に話していた金融機関に駆け込み金を借りた。彼女はいつも「無理しないでね。」と笑っていた。大丈夫だ、と強がっていた。俺は彼女との関係が終わるのが怖かった。彼女が欲しいと言ったペンダントを買った時、彼女が初めて俺に抱きついてきた。耳元で大好き、と囁かれ生きてて良かったとすら感じた。そうして彼女と過ごし、一年が過ぎた。俺は借金に追われていた。至る所から借りて、返してを繰り返すうちにとんでもない額になっていた。これ以上はどうしようもなかった。俺は彼女に打ち明けることにした。今なら許されると思った。彼女を家に呼び、二人で逃げようと伝えた。彼女は静かに頷いてくれた。その日のうちに荷物をまとめ、なけなしの金で船に乗る金を集めた。彼女が家まで迎えにきて欲しいと言ったので迎えに行ってやった。

借金取りがいた。真ん中には彼女がいた。はめられていた。泣いて訴えても彼女は静かに俯いていた。後ろで男たちが俺の腕を拘束していく。目も、足も、口も。全てを塞がれどこかへ連れて行かれた。途中、頭に強い衝撃が走り気を失っていた。次に目を覚ますとドアが一つだけある。窓も何もないコンクリートに囲まれた部屋だった。彼女がいた。俺は最後に彼女に訴えた。助けてくれ、と。全て君のためだったんだ、と。君は俺を好きと言ったじゃないか、と。彼女は静かに近づいて、俺を優しく抱きしめた。喜び、幸せ、そんな感情が湧き上がる。そして彼女が口を開く。

「私、お金持ってない男って嫌いなの♡」

その瞬間、俺は全てを失った。

その後彼を見たものはいない。


「あーあ、次の男見つけなきゃ。」

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