誕生日・真夜中・オレンジジュース
「…大人になったもんだなぁ。」
夜中の公園で二人、缶ビールを傾けながら身を包む夜風と会話を楽しむ。今日誕生日を迎えた親友、蓮がつぶやいた言葉は秋の風に流されていく。
「そうだな。もうこうして二人して深夜の公園で酒を飲むようになるなんてな。」
俺はそう返す。蓮はビールをごくりと美味そうな音を立てて飲むと
「空なんてちょっと前までアホくさいガキンチョだったのにな。」
と言って笑う。
「ウルセェ。お前だってピーピー泣いてたガキンチョだっただろうが。」
そう言って俺も笑う。幼馴染の俺たちは昔からよく遊んでいた。ずっと一緒だったわけじゃない。高校も大学も仕事だって違う。それでもこうしてたまに集まってバカみたいに話して飲んで適当に解散する。
「それよりお前いいのかよ。教師がこんなところで酒飲んで。」
蓮は今教師だ。あの不真面目な男がよく教師になんてなれたもんだと俺は今でも思う。授業はサボるし課題はやらない。そのサボりに何回巻き込まれたことか。
「いいんだよ。俺だって人間だし、息抜きぐらい許せ。それに大人の俺が楽しんで生きなきゃ生徒に伝わんねぇだろ。」
「ふーんそうか。まあいいけどな。」
「お前は昔から心配性だな。」
「お前は何も考えてなさすぎんだよ。学生の頃から今もな。」
「それが俺のモットーだからな。」
「バーカ。」
そうして二人で缶を空にする。
「どうする?もう一本買うか?」
「いや、俺飲みたいものあるわ。」
「そうか?とりあえずコンビニ行くか。」
缶のゴミをその辺のゴミ箱に捨て、コンビニを目指す。
「あった、これこれ。」
コンビニで空が手に取ったのは昔よく飲んだ紙パックのオレンジジュースだった。
「懐かしいもん出してきたな。」
「この前生徒に奢ってやったんだよ。それで懐かしくなってな。」
「へぇ、お前が奢るなんて珍しいこともあるもんだな。」
「まあ色々とな。」
二人して紙パックのオレンジジュースを買って店の前であける。ストローをさして吸い上げると口に柑橘の爽快感が広がった。
「懐かしいな!この味!」
「お前これ大好きだったもんな。」
子供の頃を思い出す。あの頃も二人でこのオレンジジュースをよく飲んでいた。まあ今はおっさん二人がオレンジジュースを飲む変な光景になっているがそんなことは気にならなかった。
「なんかあれだな。ガワは大人になったけど中身は俺らガキのままだな。」
「違いねぇや。」
そうしてくだらない話を再開する。俺たちは大人になった。時間の流れは変えられない。でも、俺たちが全部変わる必要なんてない。いつまでもガキみたいなことで笑ってくだらない話をするのだって、まぁ、たまにはいいと思うんだ。
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