月・オレンジジュース・水族館
「ほんとに月が浮いてるみたいね。すごく綺麗。」
水槽からの光でキラキラと横顔を光らせながら雫はつぶやく。何でこうなったんだっけ…?水族館に四人で行こうとしてそれで千尋と結が補修で先生に捕まって、それで雫と二人で…?
いやいやいやどうしたらいいんだよ!実は俺は雫とそんなに二人で話したことはない。こういう時って何話したらいいんだ…?
「どうしたの?真也くん。そんなに楽しくない…?」
相変わらず変わらない表情で雫が覗き込んでくる。
「そんなことないよ!でもなんか雫さんと二人でって初めてだなぁって。」
「…そうね。」
雫が静かに俯く。かと思うといつもの表情で
「奥にもいってみましょう?」
なんてクラゲの水槽の奥へ進んでしまう。なんかやっちゃったか…?
しばらく二人で他愛もない話をしながら水族館のクラゲのイベントを楽しんだ。とは言っても俺自身はあんまり内容を覚えてない。会話をつなぐことに必死だったからだ。最後に特設のカフェに二人で入る。これ周りから見たらデートだよな…。メニューを眺めせっかくなのでクラゲの形の氷が浮いたオレンジジュースを頼む。雫はクラゲのアイスがついたコーヒーにしたようだ。注文を終えると沈黙が訪れる。やばい、見るものがなくなったから何を話せばいいんだろう。
「…真也くん、今日はありがとう。」
珍しく雫から話しかけてきた。何だろうな。
「いや、俺も水族館なんて久しぶりだったから楽しかったよ。」
「そうだね。」
会話が途絶えてしまう。あーこれほどあのバカ二人の存在を必要としたことはない…。
「ごめんね、楽しくなかった…?」
雫が俯いてそうつぶやく。え?何で?
「楽しかったよ!急になんで?」
「私こんなんだから…。楽しくても表情に出ないし会話もうまく続けられなくて…。いつもは結ちゃんとか千尋くんとかが話してくれるけど、今日は二人だし頑張らなきゃって思ってたんだけど…。やっぱりうまくいかなかったかも。」
そう言って悲しそうに笑う。バカか俺は。こんなに気を遣わせてるんじゃない。友達じゃないか。
「ごめん!雫さん!俺も二人だから緊張してたんだ。二人で話すことなんてなかったし、雫さんが楽しいか分からなくてどうしていいかわかんなかった。だから俺もごめん!」
俺も正直に打ち明ける。俯いていた雫はぱっと顔を上げて
「そっか。私たち同じだったんだね。」
と笑った。その顔は今日一番いい顔で。その笑顔になぜか俺はドキッとしてしまった。
「そうだね、二人とも気使いすぎたね。」
なんて俺も笑う。二人で少し笑ったあと雫が
「私、真也くんともっと仲良くなりたい。」
なんて少し微笑んでいうもんだからまた俺はドキッとしてしまう。なんだこの人かわいいぞ…?
「うん、俺も、もっと仲良くなりたい。」
顔に出ないように至って冷静に答える。仲良くってどうするつもりだろう。
「じゃあ、呼び方でも変えてみましょうか。とりあえず呼び捨てなんてどう?」
「それいいね、じゃあ…雫?」
「そうだね、真也…ふふ、なんか照れるね。」
可愛すぎてどうにかなりそうだが!やっぱり助けてくれ千尋!結!
俺がうだうだしていると注文したものが運ばれてきた。雫はやっぱり表情が変わらない。…いや、なんか目がキラキラしてる?そんなにアイス好きだったのか…。
「いただきます。」
そう言ってアイスを一口食べる雫。すると目に見えて目のキラキラが増える。何だ、よく見るとわかりやすいじゃん。…あ、そっか。俺、今まで目を見て話してなかったんだ。自分の行動を振り返って恥ずかしくなる。これからはちゃんと向き合おう。
「真也もこれ、美味しいよ。」
なんてスプーンにアイスを乗っけて差し出してくる。キラキラした目で。急にグイグイ来すぎじゃない?そうしてまた俺は目を逸らしてしまう。背後で海月がふわりと舞い、オレンジジュースがカランと鳴った。
「なんかあの二人急に距離近くね?」
「それな!」
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