架空・道化師・遊園地

近頃、ある噂が流れてくるようになった。別に地元の人間関係のこととか、怪談話とかそういう類のものではない。近頃みんな同じ夢を見るらしい。しかもそれが幽霊が出るとかでもなくただただ夢の遊園地で遊び尽くす夢みたいだ。しかもこの夢は必ず見たいと思った時に見ることができるらしい。自分の手書きで夢への入り口と紙に書いて拇印を押す。それを折り畳んでポケットに入れておくと夢の遊園地への列車に乗ることができるらしい。夢の遊園地には面白おかしく盛り上げる道化師の他は誰もいないらしい。誰かと行きたい場合は全員の拇印をチケットに押すことらしい。まるで夢見たいな話だが夢の遊園地なんだから当然だろう。友達からその話を聞いた私は半信半疑なんだけど。そこで私は一人で遊園地に行ってみることにした。なぜ一人かというと友達が来ると言うのも信用できていないからだ。まずは一人で偵察してみよう。

夜、ちゃんとチケットを準備して眠りにつく。寝ようとすると寝付けないものだろうと思っていたがなぜかすぐ瞼が重くなってきた。とても目を開けていられない。そのまま目を閉じるとどこからか電車の音が聞こえてきた。ふっと瞼が軽くなり目を開けると私は電車の中にいた。いや、これは汽車…?私が周りを見渡していると足音が近づいてきた。音の聞こえる方に目を向けると車掌の服を着た頭がひまわりの異形のものが立っていた。背筋が凍る。ひまわり男はこちらに手を差し出してきた。まるで何かを渡せと言っているようだ。でも渡せるものなんて…。

「あ…。」

ポケットからチケットが出てきた。もしかしてこれ?差し出すとひまわりの車掌は何も言わずに受け取りスタンプを押して返してきた。これ切符にもなるんだ。列車が大きな音を立てて停車する。窓の外には遊園地が見える。ひまわりの車掌はどこかへ行ってしまう。列車が静かに停車すると扉が開いた。外に出ると周りが全く見えなくなる。どうしていいか分からず立ち尽くしていると急に目の前がぱっと明るくなる。思わず目を閉じるとふわっと風が吹いてきた。目を開けるとそこはキラキラと輝く夢のような遊園地だった。そうか、ここが…。すっと目の前に風が再び吹くと目の前にピエロのような格好をした変な男が紳士のように頭を下げて立っていた。

「ようこそ!夢の遊園地へ!」

喋りかけてきた。なんか怖いな…。

「チケットをお持ちですか?」

そう言って跳ねるように歩きながら私に近づいてくる。私はチケットを差し出す。

「これは確かに。では夢の遊園地をお楽しみくだサイ!」

そう言って私を導くように手で乗り物を指し示す。遊んでみたいけど私の目的はそうじゃない。

「すみません、先にお聞きしたいことが…。」

「はいハイ、何でしょうか?」

「ここって何なんですか?何でこんなにはっきりとした夢を…?今私の体はどうなっているんですか?」

「ここがどこか、なんて簡単ですよ。あなたの夢、それ以上でも以下でもありませんよ。なぜはっきりした夢なのか、と言われてもそういうものとしか言えませんねぇ。最後にあなたの身体ですがちゃんと眠っていますヨ。ぐっすりです。」

「ちゃんと答えてください!何でみんなが同じ夢を見ているんですか?」

「さあ、ただの偶然じゃないですか?」

「そんなわけないです!そんなこと現実的に考えてあり得ないんですよ?」

「知らなくていいじゃないですか。そんなの。さっさと楽しみましょう?」

何だかイライラしてる?怖い…、でもここで引くわけにはいかないし。

「楽しむためにも知りたいんです。このままじゃ怖くて楽しめません。」

そういうと道化師は大きくため息をついて

「はぁ、わかりましたよ、ではこちらへどうぞ。」

と言って歩き出してしまった。何だろう。ついていくしかないか。

ついていった先はカフェだった。すごくポップな看板には独創的かつ派手な料理がいくつも並んでいる。その一角に腰掛けるとシロクマが二足歩行でコーヒーを持ってきた。

「そこどうぞ。あ、飲み物コーヒーでよかったです?まあそれ以外出しませんけど。」

「あ、はい、大丈夫です。」

それ以外ないなら聞くなよ。露骨にめんどくさそうだな。

「で、えっと何でしたっけ?ここがどこか?」

「そうです。何でみんな同じ夢を見るのか知りたいんです。」

「はいはい…。簡単に説明しますね。ここは世界の狭間。あなたたちの世界とは別に架空の世界というものがあるんです。あなた、ドラゴンとかグリフォンとか竜とか、そういう架空の生き物とかご存知ですか?」

「ええ、もちろん。それが何か…?」

「その世界はそういった現実世界の人間たちが作り出した架空が実際に生きています。現実世界がある限り架空は増え続けるのです。そしてここはその架空世界との狭間。だから何でもありなのです。さあ、これで良いでしょう?もうすぐ時間なのに、ああ勿体無い。」

「最後!最後に一つだけ!何で急に狭間が現れたんですか?」

「それは私の気まぐれですよ。」

「気まぐれ…?そんな理由でっ、」

「はいはいもう時間みたいですので、また今度、夢でお会いしまショウ。」

急に口調が戯けたものに戻ったかと思うと急に瞼が重くなってきた。眠気とは違う、強制的に目を閉じられる感覚。それと同時に体が平衡感覚を失い頭がぐるぐる回り出す。そうして意識が遠のいていき、ついに私は意識を手放した。


次に目を開けるといつものベッドの上だった。体に変わったことはないが、確かに夢の世界を覚えている。しかし、ピエロとカフェに入ってコーヒーを飲んだ後の記憶がない。結局あそこは一体どこだったんだろう。でもまあ、いいか。


「ああ、またいらしたんですね。どうぞ楽しんでいってください!」

道化師は笑う。嗤う。滑稽に、愉快に、子供のように、妖しく。

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