高校・にわか雨・風

「この水ってどこから来るんだろうね。」

教室の窓から手を出しながら結がそうつぶやいた。

「さぁ?宇宙レベルなんじゃね?」

千尋がぶっきらぼうにそう答える。隣で雫は興味なさそうに漫画をペラペラ捲っている。耳だけはこちらに傾いているのだろう。

「確かどっかから風で流されてくるんじゃなかったっけ。」

俺はどこかで聞いた知識を何となく垂れ流す。放課後の教室。何気ない会話だけが流れる。帰ろうとしたタイミングで運悪くにわか雨をくらった俺たち四人はこうして空き教室で意味もない雑談に興じていたと言うわけだ。部活にも入らずフラフラしている俺たちが他に行き場なんてあるわけもなくここでひたすら雨が止むのを待っていた。

「しっかしついてねーなぁ。帰りのタイミングで雨が降るなんて。早く帰って映画見たかったのに。」

こいつは千尋。見た目が派手だが中身はただの映画好きないいやつだ。中学からの付き合いで何やかんや腐れ縁が続いている。

「しかも誰も傘持ってきてないなんてね。ほんとあんたらに期待した私が馬鹿だったわ。」

窓から離れてそう言うのは結。うちのクラスの学級委員で気さくないいやつだ。去年同じクラスだった時に仲良くなりこうして進級しても同じクラスだった。

「まあ俺らにそんな期待すんなよ。というか結だって持ってきてないくせに。」

俺がそう返すとこちらに向かって結は

「うっさい真也。こう言うのは男が傘を差し出しなさいよ。ねえ雫?そう思わない?」

無茶苦茶なことを言いながら結は漫画を読んでいる雫に目を向ける。

「ほんとに、そうだよね。」

雫は学年トップの秀才で、いっつもブックカバーをかけた本を読んでいる不思議なやつだ。しかしその中身は全部漫画で、授業中もよく寝ているが教師からの評価はなぜかいい。去年のクラスで一人で本を読んでいた雫を見てそれが好きな漫画だと気づいた千尋が突っ掛かり仲良くなった。それ以来四人でよく連んでいる。

「雫までそんなこと言うのかよ!いっそ濡れて帰るか…。」

「嫌だよ!レディに濡れて帰れって言うの?」

「俺も嫌だ。制服乾かなそうだし。」

「私もパス。どうせすぐ止む。それにもう少しでいいことありそう。」

「何だよお前ら!それにいいことって何だよ!」

そうして四人で騒いでいる途中、徐に雫がそう言った。いいことってなんだ?雫は漫画をおき、窓へと近づく。

「ほら。」

そう言って指さした空には大きな虹がかかっていた。なるほど、これがいいことね。

「キレー!確かにこれはいいね!」

「確かにな!」

「だね。…でも雨は止まないね。」

「大丈夫。」

また徐に雫が言い出す。そして鞄から折り畳み傘を二つ取り出した。

「これで帰りましょ。」

「「何であるのに言わない!」」

二人の声が響く。そりゃそうだ。早く言ってほしかった。

「だって、そうしたらこれ見れなかったし、みんなで話すのも楽しかったでしょ?」

そう言われると弱い。

「まあ、な。」

「さっすが雫だね。まあでも確かに楽しかったや。」

「でしょ、じゃあ帰ろ。」

四人で連れ立って歩き出す。帰っている間に雨は止むだろう。明日もこんな日常は続くだろうし、たまにはこんな日があってもいいか。

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