おばけ・天国・会社

拝啓、天国のお母さんへ

そっちはどうですか?天国って本当にあるのかな。あるならそっちで幸せになってね。私?私は今ーーーーー会社で幽霊と出くわしました。

落ち着け私。落ち着け立石さやか。これは夢だ。そう、まだ夢だ。よし、もう一回寝ようそうしよう。

「おい、君!私が見えないか!?」

なんか話しかけてきたこわいこわいこわい!

「見えてないです私は何も見てないですぅー!」

とりあえず走って逃げるしかない!

「返事してるじゃないか!待ってくれ!話を聞いてくれ!」


全力で逃げたけどさすがは幽霊というべきかふわふわと追いついてきて先に私の体力が尽きた。くそ、体力つけとくんだった…。

「全く疲れないとは…、幽霊の体も便利なもんだな。」

なんか呑気に幽霊が話してる。もうよくわかんないよ。なんで霊感あるわけでも無いのに私に見えるのよ…。一旦落ち着こう…。

「君!私が見えるんだろう?少し話を聞いてくれ!」

「はあ…もう何なんですかあなた。」

「実は君と同じ会社にいたものなんだが昨日階段から落ちてしまってな…。死んでは無いようなんだがなぜか体に戻れんのだ。空想のようにはいかんな。」

もう普通に話し始めるんだ。私も疲れちゃったよ。

「生き霊…ってやつですか。大体こういうのって未練とかありますよね。なんか心当たりあるんですか?」

「それが思い浮かばなくてな…。正直好きなように飛び回れるからどうしようかと思っていたんだ。」

それを私にどうしろと…。

「それより君時間は大丈夫か?もうすぐ始業の時間だろ。」

あああ!そうだった!時計を確認するとかなりギリギリの時間だ。

「急がないと!」

そうして変な幽霊に絡まれた私は今日2度目のダッシュをさせられるのだった。


「そこはこうした方がやりやすいぞ。」

「そこ、誤字してるぞ。」

「そろそろ休憩したらどうだ?」

「その資料はこうしたほうが見やすいんだ。」

なぜか幽霊は私についてきた。どうやらかなりのベテランらしく正直仕事は捗った。この幽霊の名前は橘真也というらしい。50代らしいが太ってもおらずイケおじって感じだ。昼休みにそれとなく情報を集めてみたけど本当に入院中らしい。何で私に見えるかはわからない。仕事が終わるとそのことについて話始めた。けど何もわからず、流石に家に帰るときはついてこなかった。病院に戻って寝るらしい。幽霊でも眠くなるんだな。なんて見当違いなことを思いながら家に帰る。

帰って仏壇に手を合わせる。

「お母さん、今日は大変な1日だったよ。なぜか変なおじさんの幽霊が見えたりして何が何だか…。お母さんももしかして幽霊になってたの?ちゃんと天国まで行けたのかな。…会えるなら会いたいよ。」

お母さんは二年前に死んだ。なんてことはない。病気が悪化してそのまま旅立った。女手一つで私を育て上げてくれた。バリバリのキャリアウーマンとして働いていて、私の憧れだった。私もあんなふうになりたくて、今必死だ。そんな中あんなことになるなんて…。いったい誰なんだろ。

よくある話だけど実はお父さんとかだけどそれはない。私はお父さんともよくあってる。だから絶対に見間違えるわけはないし…。考えても仕方ない。とにかく今は休もう。そう思うと途端に疲れがきた。もうさっさと寝てしまおう。明日もいるのかな…。なんて思いながら、私の生活に戻った。


翌日、休みを利用して橘さんの病室に行ってみた。会社の部下だというとすんなり入れてもらえた。病室にいく途中。ふわふわと浮いている人が見えた。

「何してるんですか…。」

他の人に聞こえない声で呟く。

「おお!立石君!きてくれたんだな!」

うっ、実は気になってたなんていうのは恥ずかしいな…。

「あのままにしておくのもなんか嫌だったので…。それより何か進捗はありましたか?」

また可愛くない言い方をしてしまった。

「それがわからないんだ…。確か階段から降りる時にはお酒を飲むことを楽しみにしてたんだが…。まさかそれが未練じゃないよなあ。」

「…ものは試しですし、お酒飲みます?」

「この体で飲めるかわからんが…やってみるか。」

病院の売店でお酒を買い、病室に戻る。

「じゃあ飲むぞ…!」

コップに注がれたビールを見ながら橘さんが呟く。なんかすごい身構えてるけどお酒飲むだけなんだよな…。

「おお、持てた!飲むぞ!」

橘さんがビールを飲み干す。

「どうですか?何か変化はありますか?」

「なんか、すごく眠い…。」

それだけ言って橘さんは眠ってしまった。そしてベッドに倒れ込んだ瞬間、幽霊の橘さんと実体の橘さんが合体した。これはもしかして…。

「橘さん?」

と体を揺すってみる。

「ん…ここは…?」

橘さんが目を覚ました!まさか本当にお酒だったなんて…。

「よかった!戻れましたね!」

「本当に…?やった…、生きてた…。」

そういうと橘さんの目から涙が溢れた。そっか、死んでるかもわからない状態だもん。そりゃ怖かったよな。

「ああ、立石君…。本当にありがとう。今度ぜひお礼をさせてくれ!」

「いえいえいいんですよ。看護師さん呼んできますね!」

あぁ、色々あったけど早めに解決してよかった。


その後橘さんは体に異常もなく仕事に復帰したそうだ。私は本当にお礼と言っておいしいご飯をご馳走になってしまった。橘さんの奥さんからもすごく喜ばれて、おいしいお菓子までもらってしまった。(そういえばどうやって私が幽霊の橘さんが見えて助けた説明をしたんだろう。)

そんなことがあって平穏な日常が戻ってきた。今日も私はお母さんに見守られながら家を出る。

「行ってきます!」

お母さんは天国に行く時やっぱり泣いていたのだろうか。笑っていたらいいな。遺影の中のお母さんが少し微笑んだような気がした。


会社に行くとなんか浮いているように見えた。まさか…。

「立石君!私だ!橘だ!昨日頭をぶつけたらまたこうなってしまった!助けてくれ!」

ーーーーー拝啓、お母さん。

私の平穏はなぜか遠くへ行ってしまったようです…。

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