ヘビースモーカー・タバコ・捨て子

都内、マンション三階、一人暮らし。そこが私の寝ぐら。毎日仕事して家に帰るだけの日々。今日も残業して一人でコンビニのご飯を食べた。アラサーで彼氏もいない。長く続かないのは私の性格の問題なのだろうか?なんて一人で話してても答えは見つからない。もう今日は何もすることはない。ベランダに出てタバコに火をつける。十二月は流石に冷えるけど家では吸いたくないし。紫煙を燻らせながら今朝買ったばかりの箱が空になったのをぼーっと見つめる。ここ数ヶ月でタバコを吸う量が増えてしまった。タバコなんて吸わないと思ってたのになぁ。あの人みたいだ。タバコの煙の向こう側に見えるのは大きな背中だった。


物心がついた時、すでに私は施設にいた。表向きは親が一時的に子供を預けているところだったけど実際は捨て子だ。親が何らかの理由で育児を放棄した子供の集まり。職員もそれを知っているから愛情なんてないし周りの子供もそうだ。親を探すのに必死だった。かくいう私も親を作るために必死だった。今思うと愛が欲しかったのだろう。でも私は笑うのが苦手だった。目つきは鋭く睨んでいるように見えるらしい。誰も私のことをもらおうとしなかった。周りの子はどんどん卒業していくのに私だけ一人だ。ある時から好かれようともしなくなった。小学校に上がる頃だったと思う。そんな子供が長く持つわけない。私は疲れていた。そんな時、あれがきたんだ。

「お前、いい目をしてるな。俺と来るか?」

派手な金髪に焼けた肌、筋肉質な体つきをしたおっさんだった。その頃の私は返事もせずにいたのだが、

「沈黙は肯定ってことだよな!」

と大きく笑って勝手に引き取りの手続きを済ませてしまった。そいつは職人、というか大工の棟梁だったらしく嫁と何人かの弟子と生活していた。なぜ私を引き取ったか聞いたのは最近だった。まあ、酔っ払って「お前の目が良かったんだ!目がな!」とかよくわからない理由だったけど。でも多分、子供が欲しかったのは間違い無いと思う。私を引き取ってから弟ができたけど。そこでの生活は今までとは大きく変わっていた。奥さんは本物の子供のように愛してくれた。弟子たちも親戚のように構ってくれた。荒んでいた私の心は癒えていった。でも、そいつだけは不器用だった。すぐ怒鳴るしスキンシップは下手だし全て空回っていた。当時の私にはそれが怖くて近づけなかった。でも唯一、仕事の合間にベランダでタバコを吸っているときはかっこよく見えた。その背中に憧れたんだ。だから私が建築関係の仕事に進んだことは絶対言わないけど。タバコは臭くて煙かったけど、煙の中にいるそいつが好きだった。今でも煙の中に面影を見てしまうのは仕方ないことだと思う。


prrrr、prrrrr

部屋着のポケットから着信を告げる音がする。電話の相手を確認してから電話に出る。

「もしもし、どうしたの。」

『いやね、あの人が玲は正月帰ってくるんだろうな!ってうるさくてねぇ。』

「あーうん帰るよ。ていうか毎年帰ってるじゃん。」

『毎年聞かなきゃ気が済まないのよ。』

「子供かよ。新は?」

『姉ちゃんがいないと親父うるさいし帰ってきてって。』

「あはは、しょうがないなぁ。可愛い弟のためにも早めに帰るよ。」

『そう?ありがとー。あ、おとうさ…『おい玲!ちゃんと帰ってくるんだろうな!』

「あーもう、そんなにでかい声出さなくても聞こえてるよ



ーーーーーお父さん。」

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