第56話 人魚の呪い攻防戦~歌とダンスのクライマックスなのです②~

 何で全裸なんだろう。いや、仕方なかったんだけど、あのときはよくわかっていなかった。普通に考えて、全裸でタップダンスを踊るって頭がおかしい。


 せっかくのきれいな歌に、努力に努力を重ねたダンスを披露ひろうしているというのに、踊っている奴が全裸って。


 何だ、この状況?


 いや、気にしている場合じゃない。


 何はともあれ、呪いにあらがえている。このまま、タップダンスを続けるんだ。そうすれば、もしかしたら、勝てるかもしれない。


 そんな僕の期待を察してか、人魚の歌の声量が大きくなった。視線を向ける。そして気づく。


 人魚が増えているのだ。


 岩場に一匹の人魚がいた。いつも、歌っているのはその人魚だけだ。しかし、今は二匹、いや三匹いる。彼女達が呪いの歌を重ねて歌っている。


 ぐっ!


 身体が重い。


 どうやら、呪いの効果が高まったらしい。気を抜くと意識をもっていかれる。このきれいな歌の中に埋没まいぼつしてしまいたい。ふとすると、そんなあまい欲求にかられる。


 くそっ!



 カカカンカン、カカカンカン、カンカカカン!



 振り切るように、俺は靴を鳴らした。

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