第55話 人魚の呪い攻防戦~人魚の独白①~

 意味がわかりませんでした。


 冒険者が、うちら人魚の泉を攻略に来ることは今までにもありました。えぇ、たいしたことありません。どんな強者つわものであっても、この人魚の泉では通じませんから。


 そうです。呪いです。


 そもそもうちらは精霊に近いので剣やの銃やのでは死なんのです。そのことを知らずに毎度毎度やってくる人間はアホとしか言えんのですけど、たいていの冒険者は剣をうちらに向けるのが精いっぱいで、あとは呪いにかかって動けんくなります。


 歌ですからね。ふせぎようがないんです。


 この呪いに打ち勝とうと魔法使いが来たこともあります。けれども、うちの知るかぎり呪い崩しされたことはありません。魔女とかいうやつが来たらどうかわかりませんが、人間ごときに破れる呪いではないんです。


 呪い破りなんて、もっての他です。


 えぇえぇ、おったことにはおりましたよ。呪い破りをして、魔王様が受けられるような接待を受けようという不埒者ふらちものが。多くは歌を重ねてきました。確かに呪い破りするにはそれが正しいでしょう。人間でも気づく奴はいるのだなとえらい感心しました。けれども所詮しょせんは人間です。どんなにがんばって歌っても、うちら人魚の歌に比類する歌なんて歌えません。つまり、呪い破りなんてできんのです。歌っても何しても。


 たとえ


 踊るというのは新鮮でした。なかなか考えたなと思いましたよ。まぁ、だからといって、呪い破りなんてできるとは思えませんでしたが。ただ、それはそれとして。


 何で全裸なん?


 いや、踊るのはいいですよ。でも、全裸である意味はないですよね? そもそも何であいつら一回温泉にかるんですか? 浸かる必要ないですよね? アホなんですか? いや、アホなのは確定だとして、全裸で革靴を履いて踊るなんて気がちがえているとしか思えないんですけど。


 こいつだけは何が何でも呪いで殺したらなあかん。


 変態二匹を見て、うちはそう思いましたね。はい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る