第54話 人魚の呪い攻防戦~歌とダンスのクライマックスなのです①~

 タップダンス。


 ある地方でドラムなどの打楽器が禁止された時期があった。暴動が相次ぐなかで煽情的せんじょうてきだとかそういう理由だったらしい。ただ、音楽への衝動しょうどうを止めることはできない。


 打楽器を禁止された者達は、靴底でリズムを作った。石の地面と靴底。打ち鳴らされる音は、甲高くリズムを刻む。


 そんなタップダンスの歴史は、今、このとき、どうでもいい。


 ただ必要なのは、そのタップダンスが人魚の歌に合うかどうか。合うような演奏を、俺達がかなでられるかだ。



 カカカカカカ、カツンカツン、カカカカン!


 

 音はいい。


 この音を出すのもたいへんだったのだ。靴底の金属を選び、岩場との相性を探った。


 

 カンカカカン、カカカカ、カカカカ、カカカカカン!



 俺とカラスは靴を鳴らした。シンクロした動き。音のつぶそろっていることが肝要かんよう。二人で一つの音を鳴らし、リズムを刻む。


 足先で慣らし、靴底で二回。普通の靴では起こりえない、特殊な動き。うまい人ならば、ほとんど動かずにたくさんの音を鳴らせる。教えてくれた芸人がそうだった。俺達にできるのは、彼の半分くらいの頻度で音をつくること。動きも大きい。けれども、そこは演出でカバー。


 

 カカカンカン、カカカンカン、カンカカカン!



 人魚の声を聞く。聞かなくてはならない。この呪いの歌を。聞いて合わせる。このきれいな歌声と、なめらかな旋律せんりつに、俺達の打音でメリハリをつける。


 調和ハーモニー


 彼女の歌に、俺達の打音が重なって一つとなる。美しくおだやかに流れる川に、花びらをくような、そんな色彩が宿るのを、俺は確かに感じた。


 そして、それは結果となって現れる。


 動ける。


 動けている!


 人魚の歌をいつもよりもじっくりと聞いているのに、俺の身体の自由はうばわれず、むしろ興奮のせいでよく動ける。


 歌も鳴り止まないということは呪いの接続も切れていないのだろう。だとしたら、成功している!


 俺は踊った。


 美しすぎる歌に合わせて。


 全裸で。


 ……。


 全裸で。


 全裸に、靴を履いて。


 ……あれ? 変態じゃん。

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