第48話 人魚の呪い攻略戦~全裸のおっさんが頬をつねり合います。あ、想像しなくていいです~

「なぁ、この作戦ふぁくへんどのくらい本気なんだふぉのくらいふぉんきなんふぁ?」


大真面目だふぉふぉふぁいえふぁ



 何を言っているのかわからないが、おそらくどうでもいいことを言っているだろう。どうせ、この状況に意味を持たせるものではない。


 俺は温泉にかっている。歌姫の湯だ。二度目の温泉を堪能たんのうすることもなく、ただただ緊張している。なぜなら、この後に起こることを知っているからだ。


 知っていて、緊張しつつも全裸で温泉に浸かり、横にいるおっさんのほおを、俺はつねっていた。


 何やってんの、俺?


 カラスいわく、つねっていれば痛みで歌に聞きれないのではないか。


 いや、わかる。確かに一度はやってみたい。歌に聞き惚れると眠りに落ちるような心地よさがある。そこを痛みで乗り越えようというのは至極自然な発想だ。


 でも、他にやり方なかったの?


 おっさんの髭面ひげづらつかみつつ、温泉に入って、呪いの歌を待つというのは、何というか、何なんだろう。未知の体験過ぎて言葉で表せない。とりあえず、めっちゃ汗が出る。苦い味の汗が出る。


 俺があせっていると、ついに歌が聞こえてきた。


 正直、もう一度聞きたかった歌。人魚の捕食のために歌われる呪いの歌だが、どうしようもなくんでいて、すーっと心に染み入る。


 本当に素敵な歌だ。


 頬の痛みなど忘れるくらいに。


 ん?


 忘れちゃだめだじゃない?


 

だめだふぁめふぁ



 気づいたときには時既ときすでおそし。いや、初めからわかっていたけれど、つねりっこ作戦は失敗し、俺とカラスは呪いにかかり、動けなくなった。


 そして、カラスの作った腕引っ張り装置により、人魚から逃げだした。結果として、森の中に全裸の男2人が転がっている。



「失敗だ」


「あぁ、しかったな」


「どの辺が?」



 俺は、身体を起こし、とりあえず思ったことを言った。



「いや、こんな方法うまくいくわけないじゃん! やる前からわかってただろ!」


「何でだよ! やってみないとわかんないだろ!」


「このくらいでクリアできるんだったら、他の誰かがとっくにやっているだろうよ!」


「これだから素人は。こういうチャレンジはしらみつぶしが基本だ。こんなの意味ないだろうなと思っても、念のために試して、だめだったことを確認する。その繰り返しだ」


「うっ、そういうもんなのか? 確かに俺は素人だからわからないが」


「あぁ。まぁ、今回のは俺もさすがになかったなと反省しているが」


「反省してんじゃん」


「ただ、頬をつねるくらいでは呪いに打ち勝つことはできないことがわかった。これも一つの前進だ」


「ポジティブだなぁ」



 そのポジティブさがくじけない心を持つ秘訣ひけつなのだろうか。はたから見るとアホにしか思えないのだけど。



「で、どうするんだ? 呪いに打ち勝つ方法はノーアイディアだってこと以外、まだわかってないんだけど」


「うるさいな。文句ばかり言ってないでおまえも少しは考えろ」


「俺は冒険者じゃないんだ。経験豊富なカラスの方がいいアイディアが出ると思うじゃん」


「呪いに関して知っていることは、おまえとさほど変わらない」


「そうなのか?」


「呪いの対策は、どう呪いにかからないかとどう呪いを壊すかの二つだ。呪いを返す方法は対策とは言わない。言ってしまえば、呪いにかかった結果の一つだ。そこに積み重ねた知識なんてない」



 そういうことか。呪いは不意打ちが基本だと言っていた。とすれば、対策はまず呪いにかからないこと。呪いにかかった上で都合のいい効果だけを得ようなんて、そんな酔狂すいきょうなことを考える奴は他にいないってことだろう。



「うーん。それじゃ、人魚を捕まえて歌うのをやめさせるのはどうだ?」


「歌ってくれないと接続ができない」


「そうか。じゃ、人魚の歌を妨害するのはどうだ? ヤジをとばして」


「それも聞かないのと同じだな。結局、接続ができないからだめだ」


「はぁ。もう、いっそ一緒に歌っちまうか」


「何をバカな。……いや、それだ!」



 ん? どれだ?



「一緒に歌うか。それは考えなかった。だが、歌の呪いに対しては適切か」


「おいおい、冗談で言ったんだぜ」


「いや、声かけの呪いというのがある。この場合、声をかけて反応したときに呪いにかかるんだ。しかし、今回の場合は逆、歌を聞いて反応せずに聞き惚れたら呪いにかかる。だとしたら、というのはかなっている」


「それで一緒に歌うってか?」


「合唱。ハーモニーというのか。これならば、相手の歌を聞き、接続したまま反応できる」


「本気か?」


「もちろんだ」


「おまえ、歌なんか歌えるのか?」



 そこで、またもやカラスは不敵に笑った。



「ついに俺の美声を披露するときが来たようだな」


「……おっふ」



 正直、不安しかない。

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