第47話 人魚の呪い攻略戦~作戦会議なのです~

「で、どうやって、人魚の呪いに打ち勝つんだ?」


「わからん」


「えー」



 カラスの返答に、俺は明確に落胆の意思を示した。



「さっきも言ったが、人魚の呪いに打ち勝つ方法はまだわかっていない。いろいろ試すしかないんだ」


「そうは言ってもさ」



 おさらいすると、人魚の泉、もとい歌姫の湯にかっているとどこからともなく歌が聞こえてくる。人魚の歌だ。この歌が呪いの歌で、温泉に浸かっている者の身体の自由を奪ってしまう。


 この呪いに打ち勝つと人魚達の接待が受けられる。あの美人が近くにやってきてくれるだけで夢のようだが、近くに寄ってくることで温泉の効能が高まり、最上に気持ちのいい温泉となるらしい。


 だが、呪いに打ち勝つ方法はわからない。つまり、そういう状況だ。



呪詛崩しブレイクってのはどうなんだ? さっき言っていただろ」


「あー、確かにそいつは呪いに打ち勝つ方法の一つではある。呪いそのものを破壊する迎撃魔法だ。こいつは、呪いの内容に関わらず、術者の能力が高さで成否が決まる」


「いいじゃん。カラスはできないのか?」


「できない。そんな芸当できるのは魔女くらいだ。そもそも俺はでな。できればあまり関わりたくない」



 自分から呪いにかかりにいっている奴の台詞じゃない。



「それに、仮にできたとしても、呪詛崩しすると崩された者は十中八九死ぬ」


「おう」



 それでは意味がない。人魚に接待してもらう前に殺してしまっては本末転倒である。



「じゃ、どうするんだよ。呪いに打ち勝ったら、人魚が死んじゃうんじゃ、やりようがないだろ」


「そうじゃない。正しい方法で呪いに打ち勝てばいいんだ」


「正しい方法?」


「まず、呪いについて説明しなくてはならんな。呪いというのは、実は魔法の一種だ。魔力を使って法則をねじまげ、事象を発生させる。その中で、直接、人に影響を与えるものを呪いという」


「はぁ」


「その点を理解すれば、接続コネクト許諾アクセプト作用反作用リザルトという呪いの3要素を理解できるはずだ。まずは接続、相手とつながり、次に許諾、相手に受け入れてもらう。ここまで成功すれば相手に魔力を送り込めるというわけだ。あとは、作用、呪いの効果を相手に与えることができる」


「それって少し変じゃないか? 許諾って、呪いなんて受け入れるわけないだろ」


「許諾といっても、相手が呪いをかけてもいいと認めるわけじゃない。術者が設定したルールにのっとって動いたら、それはもう許諾したということになる」


「何だよ、それ。じゃ、知らない内にかかっちゃうじゃないか」


「そう。本来呪いというのは不意打ちが基本だからな」


「あ、呪いっぽい」


「今回の人魚の呪いで言えば、接続は歌を聞くこと。これで、人魚と俺達の間にパスができる。そして、許諾はまだすべて理解したわけではないが、おそらく歌に聞きれること」


「なるほど。じゃ、普通に考えたら歌を聞かなきゃいいんじゃないか?」


「それでは接続が切れる。その場合は、呪いに打ち勝った、ではなく、呪いにかからなかったということになる」


「ん? じゃ、どういう状態を目指しているんだ?」


「反作用だ」


「反作用?」


「そう。人を呪わば穴二つ、という言葉を聞いたことはないか。呪いは相手と接続する性質上、相手に与える効果と自分に与える効果の二つ設定しなくてはならない。人魚の呪いでいえば、相手に与える効果は身体の自由を奪うということ。そして、自分に与える効果は、接待をしなくてはならないというものだ」


「ほう。で、どうやったら、その反作用は起きるんだ?」


「言葉で言うと簡単だ。人魚との接続を保ったまま、許諾のルールを拒絶する」


「えーっと、つまり、人魚の歌を聞きながら、その歌に聞き惚れないようにするってことか?」


「そういうことだ」



 いや、聞くだけならば簡単そうに思えるのだが。こう、心を無にして聞けばなんとかなりそう。俺が、そんなかんじのことを告げると、カラスは首を振った。



「俺もその線で進めている。だが、一週間やっても、この様だ」


「一週間、ずっとやってたのか?」


「あぁ。同じ曲でも何度も聞けば心に響かなくなるものだろ。だから、回数を重ねればなんとかなるんじゃないかと思ったんだが」


「毎度、感動してしまうと」


「いい声なんだ」



 さいですか。



「で、聞き惚れないようにするにはどうすればいいか、いろいろ試したけれど、どれもうまくいかなくて現状ノーアイディアってわけか」


「そういうことだ」



 俺は腕を組んで、うーんとうなった。一度、話された内容を理解すると同時に、どうすればいいかを考えていたのだ。ただ、ほとんど考えているふりであった。説明された以上のことを思いつかないし、それをやってだめだったら、もうだめなのでは、としか思えなかった。



「で、また同じ質問をしてすまないんだけど、この後どうするんだ?」


「同じだ。やはり歌への慣れがカギだと思う。だとしたら、何度でも歌を聞くのが肝要だろう」


「確かに」


「それに、2人いるならできることがある」


「ん?」



 ふふふ、とカラスは思わせぶりな笑みを見せた。



「つねりっこ作戦だ」


「……わーお」



 名前の通りのバカみたいな作戦でないことを祈りたい。

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