第3話 褒められるとやっぱりうれしいよね

「うぉぉぉぉぉぉお!」



 僕は、声をあげ、魔獣に向けて剣を振り下ろした。猿のような獣は、真っ二つとなり、悲鳴をあげると、しばらくしてこと切れた。



「サイラス、後ろ!」


「わかっている! エミリー、高速移動の魔法を!」


「了解! 風の精の加護をサイラスに!」



 後ろから突撃してきた四つ足の魔物をんでかわしつつ、エミリーの魔法で加速する。足が大地につくや否や、僕は地面を力の限り蹴り、四つ足の背後に移動する。


 素早く剣を突き刺し、魔物の命をつ。


 

「よし。この辺りの魔物は倒したかな」


「ちょっとサイラス、油断しないでよ」



 エミリーの小言を聞き流しつつ、二人で魔力と術具の確認をした。今のところ、まだ余裕がある。とはいってもまだ序盤じょばん。こんなところで力を使い果たしているようでは神殿にたどり着けない。



「君達、いいね」



 僕達に声をかけてきたのは、髭の男、今回の呼びかけ人の一人、ハーマンだった。近くで見るとさほど身体は大きくなく、力が強そうではない。きっと、魔法主体の冒険者なのだろう。



「あ、ありがとうございます、サイラスと言います。こっちはエミリーです」


「サイラスとエミリー、君達はまだ若いのに相当な使い手だね。いや、ありがたいのこちらだよ。君達のような手練てだれが攻略に参加してくれて」


「いえ、こちらこそ。攻略隊に加えていただいてよかったです。聖剣を手にする機会をいただけたんですから!」



 僕が、お礼を言うと、ハーマンはにこりと笑ってみせた。髭と顔の傷で人相はわるいが、笑うととてもやさしい顔になる。こちらの方が彼の本質なのかもしれない。



謙遜けんそんはしなくていい。君達は、簡単に倒していたが、ここの魔物は相当強い。実際に苦労している冒険者も多い」


「いえ、そういうつもりでは」


「数を集めて攻略するといっても、やはり、強い者を中心に作戦を考えるべきだろ。今、こうして強い者を探しているんだ。そして、こうやってみつけることができた」



 ハーマンに肩を叩かれて、僕は胸が高鳴るのを感じた。この大勢の冒険者の中で選ばれた。もちろん、それが目的ではないが、実力を認められたことがうれしかった。



「君達には、次の作戦の中心メンバーをになってもらいたい。危なくはあるが、その分、功績こうせきも大きい。どうだい、やってくれるかい?」


「はい! もちろん!」



 僕はエミリーと顔を見合わせた。彼女もグッと拳を握って喜んでいる。



「やったね、エミリー!」


「ね、私の言った通りでしょ!」



 これで、聖剣に一歩近づいた。あの大勢の冒険者の中にいたときは、不安であったが、今は少しだけ希望が見える。とはいっても、まずは神殿攻略しないと始まらないのだけど。



「サイラス、君は、この先の試練がどんなものか調べてきているかい?」



 ハーマンの問に、僕は首肯しゅこうする。



「わかっている試練は三つです。一つ目は今いる魔物の試練。この森にんでいる魔物が冒険者を襲います。二つ目は森の試練。食人植物プレデター・プラントが、冒険者を襲います。それから、三つ目が、罠の試練。いたるところに配置された罠が冒険者をめ殺します」


「よく調べてきたね。素晴らしい」


「遺跡を攻略するためには当然です」


「よし。これから挑むのは第二の試練、森の試練だ。作戦はシンプル。前方隊が、食人植物を切り裂き道を作る。中央隊が魔法で支援をする。そして、後方隊が中央隊を守る」



 なるほど。食人植物を倒すことを目的とするのではなく、とにかく進むことを目的とした作戦。これならば、力を分散させずに一点突破できる。



「君達には、もちろん前方隊をまかせたい。その魔物をものともしなかった剣捌きで、食人植物なんてぎ払ってくれ」


「はい! 任せてください!」



 と返事をしたが、ふと思い直す。



「あの、僕は武術が得意なので前方でかまいませんが、エミリーは魔法主体です。なので、中央隊に入れてくれますか?」


「ふむ。エミリーはどちらがいい? 私は、部隊を編成へんせいするとき、能力で選ぶか、相性で選ぶかを考える。君達の場合は、連携れんけいが素晴らしかった。だから、なるべく部隊は同じにしておきたいが」



 ハーマンが告げると、エミリーは、少し首をひねってから、うんと頷いた。



「私は、前方でかまいません。サイラスに補助魔法をかけるとき、なるべく近くにいた方がいいですから」


「大丈夫、エミリー? 危ないよ?」


「もう、何言っているのよ。ここまで来て危ないも何もないでしょ。私達は仲間。二人で世界を救うんでしょ」


「わかったよ」



 僕が折れると、エミリーはにこり笑った。その様子を見て、ハーマンがくすりと笑う。



「はは、本当にいいコンビだな。その力で、神殿までの道を切り開いてくれ。期待しているぞ!」


「「はい!」」



 しばらくして、ハーマン達の指揮のもと、部隊が再編制された。僕達は、言われた通り前方隊に配置される。周りを見ると、若い冒険者が多い。歳をとると体力は堕ちるが、魔力は上がる。ベテランが中央に配置されるのは、必然の分布か。


 そして、後方から、ハーマンの号令がかかったとき、いっせいに冒険者は走り出した。


 第二の試練が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る