第2話 大人数での攻略は基本です

「もう、遅いわよ、サイラス!」


「ごめんごめん」



 冒険仲間のエミリーがぷりぷりと怒っていたので、僕は頭をかいて見せた。集合時間ちょうどくらいだと思うのだが、せっかちな彼女に何を言っても無駄だ。


 つり目気味で細面ほそおもて、長い金髪を横で二つに結んでおり、いささか子供っぽいのだが、これは過去の偉大な魔女の髪型だからと変える気はないらしい。


 

「団体行動なんだから、しっかりしてよ。おいてかれたら、サイラスのせいだから!」


「ごめんてば」


 

 声の大きいエミリーに対して、僕は少し恥ずかしくなってまわりを見渡す。しかし、他の者は誰も気にしてなかった。さすがは冒険者。ちょっとやそっとじゃ動じないということか。


 僕達は、神殿に至る森の入口に集まっていた。別に入場時間が決まっているわけではないので、冒険者が、ここに集まる必要はないのだが、今回は特別である。



「お、ちょうど出発するところみたいだね」


 

 僕が前の方をうながすと、一人のひげの男がはたをあげて注目を集めていた。すると、それまでにざわついていた周囲の冒険者たちが声をひそめる。



「みんな、よく集まってくれた! 俺の名はハーマン。呼びかけ人の一人だ。今日という日は、歴史に残る日となることだろう。なんせ、このメンバーで難攻不落なんこうふらくと言われた英雄の遺跡を攻略するのだからな!」


「「「おー!!!」」」



 盛り上がりで地面が揺れるようだ。ここにいる冒険者全員が、遺跡の攻略を信じて疑わないようである。何を隠そう、僕も信じている。いや、絶対に攻略してやるという決意していた。



「今までの冒険者は、各々おのおのが欲望に目がくらみ、少人数で攻略しようとしていた。そのために、力が分散してしまっていた。しかし、今日は違う。俺達は、一つの大きな岩石だ。この遺跡を叩き壊してやろう!」


「「「おー!!!」」」


「これだけ多くの者がいて、聖剣を誰が手にするのかと不安に思っている者もいるかもしれない。だが、その心配は聖剣を手に入れてからだ。手に入れて、戻って来てから、あらためて、このメンバーで奪い合おう。それこそ、冒険者としての誇りにかけて、正々堂々とな!」


「「「おー!!!」」」



 ハーマンの声はよく通るいい声であった。演劇か何かをやっても成功しそうである。しかし、冒険者をやっているということは、何かしらの信念があるのだろう。それこそ、彼が言うように誇りに従っているに違いない。



「それにしてもタイミングがよかったね。こんな大規模な攻略隊に加われるなんて」


「でしょ。お師匠様が教えてくれたの。おもしろくなりそうだって」


「まぁ、退屈はしないだろうね」



 エミリーは周りを見渡していた。確かに、彼女の言う通り。この攻略隊が神殿を攻略してしまったら、もう手に入ることはなかったのだ。そういう意味では、僕は運がいい。ラストチャンスに間に合ったのだから。



「本当は僕達だけの力で神殿を攻略したかったけど」


「まだ、そんなこと言っているの? あのね、これまでたくさんの冒険者が神殿にいどんで失敗しているのよ。私達だって、ムリの可能性が高いわ。だったら、まずは、みんなで聖剣を取り出してから、の方が手に入る可能性が高いでしょ」


「わかっているよ。ただ、そうやって聖剣を手に入れたとして、聖剣にふさわしい者ってことになるのかなって思って」


「ふさわしい者が聖剣を手にするんじゃない。聖剣を手にした者がふさわしい者なのよ」


「エミリーは屁理屈がうまいよね」


「正しく解釈しているだけ。さぁ、うじうじしてないで行くわよ」



 エミリーの言う通り、冒険者の行進が始まった。僕は、遅れないようについていく。見たところ、僕達のような駆け出し冒険者が半分、ベテランの冒険者が半分といったかんじだ。ざっくりとした計画では、主力はベテラン冒険者で、僕達のような駆け出し冒険者は彼らの補助である。


 

「あれ?」



 周囲を見渡していたところ、僕は、ある人をみつけた。黒髪の男である。昨晩、何を聞いても、わけのわからない話しかしなかった男だ。彼もやはり冒険者だったようで、後ろの方についてきている。



「あの、こんにちは。昨晩はどうも」


「……」



 僕が声をかけると、黒髪男は視線を一度だけ向けた。



「君もこの大規模攻略隊に参加していたんだね。もしかして、それで昨日は遺跡攻略のことを話してくれなかったの? それはいけないよ。チームワークが大事なんだ。誰かを出し抜こうとするのではなく、助け合わないと」


「……わるいことは言わない。帰った方がいい」


「え?」



 初めてまともなことを言ったと思ったら、何だ? 帰れだと? なんて失礼な!



「ご心配ありがとう。でも、僕だって冒険者なんだ。若いからって、バカにしないでくれるかな! これでも、傭兵として何度も戦場には出ていて、戦果もあげているんだ!」


「そうか。おまえがそう言うのならそれでいい。勝手にしろ。に逆らうとろくなことがないしな」



 魔女? 何のことだ?



「言われなくても! お節介どうも!」


「お節介ついでにもう一つ。なるべく後ろにいろ。死にたくなかったらな」



 黒髪男の話を背中で聞きながら、僕は、エミリーを連れてがしがしと前の方に出て行った。


 後ろの方にいろ? そんなことしたら、成果をあげられないじゃないか。聖剣を手にした後、冒険者同士で聖剣を取り合うとき、今回の攻略で挙げた成果が基準となるだろう。だとしたら、前の方に陣取り、成果をあげなくてはならない。


 きっと、黒髪男は、僕に成果を出させたくないのだろう。姑息な男だ。僕は違う。冒険者の誇りにかけて、正々堂々、勇敢に振る舞ってみせる!

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