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「そろそろ、帰ります。いつまでも夜中に出歩いてたら、こっそり出てきたのがお母さんに見つかっちゃうかもしれないので」
わたしは屋上の真ん中においてあった花束を掴み、思いっきり振り被って鉄柵の外へと投げた。黄色や白やピンクの花びらをひらひらと辺りに散らしながら、花束は夜に舞うようにゆっくりと地面へと消えていった。
「これもっ」
空になったカシスオレンジの空き缶も、花束と同じように思いっきり振り被って、できるだけ遠くへと投げた。月の光をキラキラと反射させながら、空き缶は放物線を描いて地面へと消えた。少し間をおいてからカランカランと、乾いた音が響いた。
明日の朝、登校してきた誰かが昇降口の前に落ちている花束とお酒の空き缶を見つけると、どんな顔をするんだろう。もし第一発見者が先生だったりしたら、不良の生徒の仕業だと怒って、休み明けの朝礼でカンカンに怒りながら犯人探しなんて始めるんだろうか。
想像するとおかしくて、わたしはくっくと笑った。ああ、楽しみ。
これは、悪いことを教えてくれたナオさんへの、わたしなりの弔い。彼女に伝わるか分からないけど、わたしなりの感謝。
ううんと大きく伸びをしてから、一度深呼吸をする。肺に溜め込んだ空気を力いっぱい吐き出すと、わたしの中にあった全部が身体の外に抜けていった気がした。魔法も、呪いも、全部、ぜんぶ。
屋上の入り口まで歩いて扉を開き、校舎の中に入ってから、もう一度屋上を見渡す。
まん丸から少し欠けた月と、コンクリートの床に鉄柵に囲われた何の変哲もない屋上。誰も居ない。きっと、もう来ることはないだろう。
「さようなら。ナオさん」
別れを告げてから、わたしはドアをゆっくりと閉めた。
死にたがりと婚約者 師走 こなゆき @shiwasu_konayuki
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