P9

 純白のチャペルの門を背に、わたしたちはお互いの手を握って見つめ合う。


 心臓がゆっくりと、力強く鼓動する。わたしの心は恐れも喜びもなく、少しの緊張だけを感じている。初めてのキスなのにこんなにも心が落ち着いているのは、相手が同性だから、いや、ナオさんだからだろうか。


 静かに目を閉じて、唇が重ねる。


 ナオさんの心が伝わるような、そうでないような不思議な気持ち。心がふわふわと浮かんでは沈み、また浮かんでを繰り返す。まるで、魔法にかかったみたい。


 数秒、わたしたちは唇を重ね合わせて、どちらともなく離れた。数拍おいてから目を開く。


 ナオさんの髪が月光でキラキラと輝いて、五月の夜風でサラサラと靡いていて、結婚式で花嫁が被るヴェールみたいに見えた。出会ってから一番綺麗な彼女の姿に、わたしは見惚れて目を離せなくなった。


 ああ、そうなんだ。ナオさんは月夜の下でだけ、魔法がかかるんだ。


 その後、わたしたちは多くを語ることもせず軽くハネムーンの打ち合わせをし、お互いの連絡先を交換してから、家まで送ってもらって別れた。


 わたしはずっと、頭の中にピンクの靄がかかったようでぼうっとして何も考えられなかった。


 

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