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 クラスの恋愛についてのフットワークが軽い女子、はコロコロと好きな男子を変えている。サッカー部のキャプテンが好きだと言った翌週には、もう生徒会の書記の先輩が。なんて。女心と秋の空なんて言葉もあるくらいに、女子の恋というのは目まぐるしく移り変わるものなんだろう。


 わたしはまだ恋愛経験も、男子を好きになるって気持ちも分からないけど。


 それなのに、彼女は誰かにたった一度振られたくらいで死のうとしている。大人なのに、バっカみたい。


「あなたの理由だって、子供みたいじゃないですか」


「そうよね。子供みたいだよね」


 わたしが鼻を鳴らしながら言うと、彼女は少し寂しそうな顔をしてから、無理やり笑顔を作った。その表情にわたしの胸を罪悪感がチクリと刺した。


 これ以上彼女を問い詰めるのも悪い気がして、かといって彼女を横目に鉄柵を乗り越えて飛び降りるわけにもいかず、わたしはどうしたものかと、悲しそうな顔をした彼女を見つめたまま固まった。


 突然、彼女はパアンと辺りに響き渡るほどの音量で手を打った。


「なら、私と結婚してくれる?」


「はあ?」


 突然の彼女の意味の分からない提案に、わたしの口からは変な声が漏れていた。


「け、結婚って、誰がですか?」


「私とあなた。重谷奈緒と國見保葉」


「女同士ですよっ?」


「私は気にならない」


 反論をするけど、彼女は平然と言いのけた。


 性別以外にも年齢差だったり、初対面だからと言い訳を考えたけれど、彼女の目からはそれすらも全て受け入れるつもりなのだと伝わってくる。


「どうせ死ぬつもりだったんでしょ? だったら良いじゃない。不幸にはしないつもりよ」


 その言葉に、わたしの心は半分観念し始めた。いや、どうせ死ぬんだからと投げやりになり始め、今の暗い日常が続くくらいなら、いっそ彼女と結婚するのもアリなのかもしれないと思えてきた。


「それなら」


 わたしの言葉に、彼女は「なあに?」と小首をかしげた。


「五百万円」


「何のお金?」


「ゆいのーきんです」


 結納金が結婚に関係するお金なのはテレビで見たから知っているけど、どういったお金なのかなんて知らない。


 五百万円がどれほどの価値なのかも分からないけど、私にその金額だけの価値があるとも思えない。冗談と取られない、かつ彼女の真剣さを試せる金額を考えたつもりだ。それにもし、本当に彼女が五百万円を払ってくれたなら、両親に対してこれまで私を育ててくれた恩を少しは返すことができるだろう。


 彼女が本気なのかどうかを試して、いっそ断られてバカにしてやろうと思った。


 得意げに鼻を鳴らすわたしを尻目に、彼女は余裕そうにくすりと笑った。


「分かった」


「えっ!? 持ってるんですか?」


 当然、断られるだろうと高を括っていたわたしは、彼女の涼し気な返答に驚いて大声を出してしまった。


「中学生なりに大金を要求したつもりかもしれないけどね、大人を舐めるんじゃないの。お姉さん、結構高給取りなのよ」


 クスクスと愉快そうに笑いながら、彼女はわたしの手を掴んで鉄柵から離れさせた。


「これで決まりね。今から私とあなたは夫婦。さあ、行きましょう」


 振り払おう腕を振り回すけど、大人の力には抗えず、徐々に屋上出入口のドアへと引きずられていってしまう。


「ま、待ってくださいっ! 今から死ぬんじゃなかったんですか?」


「あー。まあ、それはまた今度でいいじゃない。今日はそんな気分じゃなくなったし」


 彼女はふざけたような顔で、舌を出して笑った。


「死にたい気持ちなんて、私が忘れさせてあげる」


「はああ?」

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