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コンクリートの地面に横たわり、絶命してピクリとも動かない自分と、その周りにぶち撒けたみたいに広がる真っ赤な血液を想像すると、怖くなってゾクリと震えた。
「――死にたがり」
意識外から急に耳元で囁かれて、わたしは「ひゃあっ」と情けない声をあげて飛び上がり、鉄柵から退いた。
「ぷっ……あっははは……ちょっと、驚き過ぎ」
わたしの驚いた姿がそれほどおかしかったのか、彼女はお腹を抱えて大笑いした。わたしが怒って睨みつけても、ずっと笑っていた。
「やっぱり死にに来たんだ。で、どうして死にたいの?」
笑われたのがムカついて、わたしはプイと顔を背けた。
「言いたくありません」
「良いじゃない。どうせ死ぬんだから」
おどけるように軽く死を扱うような言い方が、更に腹立たしい。
「それに、さっきも言ったように、私たちはお仲間なんだから」
「へ? それじゃああなたも……?」
「そう。死にたがり」
その軽い口調が冗談なのか、本気なのか分からなくさせる。私は冗談だととった。
「それでも、言いたくありません」
私がププイと更に顔をそむけると、彼女は嘲るように唇を歪ませた。
「どーせ。テストの点数が悪かったとか、友達と喧嘩したとか子供みたいなしょーもない理由でしょ」
あからさまに意地悪で大袈裟な口調から、挑発しているのは明確だった。そう分かっていたのに、腹の立っていたわたしに理性のブレーキは効かなかった。
「あなたに何が分かるんですか!」
わたしは自殺の理由の正当性を認めて欲しくて、彼女を納得させたくて、語り始めた。それは、身体の中に溜まった何かを吐き出す、濁流みたいな言葉だった。
日々どれだけ友達との距離感に苦心しているか、最近では両親にすら気を使って過ごしていること。そのせいで自由が少ないこと。平凡で凡才な私は進路や将来に希望が持てないこと。それなのに両親に縋ってのうのうと生きてしまっていること。
話してしまったらきっと相手を嫌な気持ちにさせてしまうからと、胸の内に密かにしまっていたものを、怒りに任せて全て吐き出した。
話を聞き終えると、彼女は涼やかな顔で、
「それだけ?」
と一言だけ口にした。
わたしが死に至る理由を全てぶちまけたのに、それだけ? の一言で片付けられてしまった。共感して慰めてくれるものだと期待していたわたしは言葉が出なくなってしまう。
「それだけって……」
「だって……」
頭を振り絞って更に理由を述べ立てようとしたわたしを、彼女の言葉が遮る。
「何か自分が他のみんなと違って特別悩んでる人間だって、大層なことみたいに思ってるかもしれないけど、それってあなたくらいの年頃なら誰しもが日常的に悩んでいることでしょ? 自分は何もしなくともスーパースターになれる星の下に生まれたとでも勘違いしていたの? 思い上がり」
自分でもそうかとしれないと、頭の片隅に追いやっていた思いを言い当てられ、わたしは恥ずかしさや怒りで頭が沸騰しそうになる。彼女に反発したいという気持ちが体の奥からごうごうと湧き上がってくる。
「な、ならっ、あなたの死にたい理由はなんですか? わたしのをこれだけ貶したんだから、さぞかし大層な理由なんでしょうねえ?」
「貶したつもりは無いんだけど」前置きをしてから、少し考えて「恋人に振られたから。かな」と彼女は言った。
「なにそれ」
彼女の死にたい理由を聞いて、わたしは堪えきれずに吹き出した。
恋人に振られたから死にたい? バっカみたい。
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