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目を開くと、星のほとんど見えない夜空に浮かぶ真ん丸な月と、学園ドラマなんかで見る特別変わったところの無い想像していた通りの屋上。そして、暗がりでよく見えないけれど、屋上端の鉄柵に片肘をつきながら、肩あたりまで伸びたセミロングの髪をなびかせてこちらを振り向いているらしい女の人のシルエットが目に入った。
徐々に暗がりに目が慣れてくると、わたしは驚きも勝手に侵入したのを見付かったのに隠れるのも忘れて、まるで魔法をかけられたようにその人影に見惚れていた。
だって、満月を背にして堂々と佇むその女の人が凛々しくて、まるでおとぎ話の登場人物みたいに綺麗だったから。
「だあれ?」
もう一度尋ねられてわたしはハッと我に返り、自分が夜の学校に侵入していることを思い出した。
「だ、誰って……」
女の人の影が、首を傾げる。
「あなたこそ誰なんですか? 不法侵入ですよね? この学校の関係者じゃないですよね? 屋上は立ち入り禁止なんですよ? 何の目的があってこんな場所にいるんですかっ?」
勢いに任せて矢継ぎ早に質問を投げつけながら、勇み足でドスドスと足音を立てて詰め寄る。自分も不審者だと相手に悟られない為に。要は威嚇だ。
手が届く距離まで近づくと、彼女はクスリと小さく笑った。その笑みに毒気を抜かれたのか、わたしは口を開いたまま言葉が出なくなってしまった。
やっぱり、キレイな人。
薄暗がりで細部まで顔が見えなかったからかもしれない。月があまりにも美しかったから、そう見えたのかもしれない。
その人の顔は学年で一番男子から人気のある同じクラスの笠井さんよりも、学校で一番、先生を含めた男の人みんなから人気のある松永先生よりも、テレビで見る人気の女優なんかよりも、わたしの目には綺麗に映った。
「私は
暗がりで見えにくかったのか、女の人はわたしに顔を近づけてきた。女同士なのに、何故かわたしの心臓はドキドキしている。
「
答えたわたしの声は緊張して、カチコチに固まっていた。
どうして笠井さんや松永先生を前にした男の人が緊張してカチコチになっているのか、分かった気がした。
「で、保葉ちゃんはどうしてここに?」
自殺しに来ました。と素直に答えたらきっと彼女に「思い直して」なんて安易な言葉で止められるだろうから、わたしは口を噤んだ。
「お月見かな?」
今夜は満月で、夜空に浮かぶ月は大きくて真ん丸。お月見をしたくなるのは分からないでもない。だからって、学校に忍び込んでまですることじゃないだろう。
その答えに呆れたのが顔に出てしまっていたらしく、彼女は「違ったか」とさして残念そうな素振りも見せずに言った。
「なら、そうねえ……」
彼女は指を顎に当てながら考える。わたしは早くどこかに居なくなって欲しいと口には出さずに唱えながら、彼女の顔をじっと睨んだ。
「もしかして、お仲間、とか?」
お仲間。何の? わたしと彼女の共通点を探すけれど、綺麗で大人な彼女と地味な中学生のわたしの共通点は、夜の学校に忍び込んだことくらいしか思いつかなかった。
わたしが首を傾げると、彼女はクスリと笑ってから鉄柵の外を指さした。
何があるのかと鉄柵に近づき、下をのぞき込む。しかし、はるか下にコンクリート敷きの地面が見えるだけで、そこには何も無かった。
これだけの高さと、硬いコンクリートの地面があれば、飛び降りた後に下手に生き残ったりしないで確実に死ねるだろうか
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