第59話 再会
『
そこの120階層にあの男、僕の父だった上野真紅郎の研究施設があることがリオ先輩からの連絡で分かった。
リオ先輩、前世の朝岡真昼は父と関係を持っていた。それは僕と知り合う前からの話で、大学の先輩として知り合った時にそれを隠すことなく告げられた。
躊躇いなく打ち明けてきた先輩に最初は戸惑いと嫌悪感の方が強かった。
だけど僕と知り合ってからは父との関係は断ったらしく、僕ともある程度距離を取って接してくれていたので苦手だが嫌悪感は大分なくなっていた。
そしてこの世界でリオ先輩として知り合い紆余曲折あってラボを任せるまでになった。
前世のこともあり苦手意識は拭えないが僕に対しては絶対に嘘をついたことがないので信頼はしていた。そしてその信頼に先輩はリスクを承知で応えてくれた。
予めリオ先輩が設置してくれていた転移マーカーを目印に飛んでくるとちょうど父とリオ先輩が話をしていた。
どうやら僕の話をしているようだ。
元からリオ先輩には僕について聞かれたら話しても構わないと言っていたので問題ない。
二人が話をしているタイミングで気配を殺して近づくと何故かリオ先輩には気配を悟られたようで確実に僕の方を見て笑った。
「ふふっ、どうやら主役が到着したようだね」
「お待たせしましたリオ先輩。向かう前にちょっとした問題が起きまして」
「それはそれは災難だったね。しかし無事にここへ着いたということは問題は解決したということだね」
「ええ、問題は解決しました。残るはそこの男だけです」
「マヒル君、君は誰と話しているんだ?」
父の方からは僕の姿が見えないらしくリオ先輩に尋ねてきた。
「ああ、アナタが待っていた人ですよ。ほら」
リオ先輩に促される形で僕は暗闇から父の前に姿を現す。
「なっ、匠海なぜここに? いや、そうか裏切ったなマヒル」
「いやいや裏切ってなんかいないよ、初めから僕は後輩君の味方だもの」
リオ先輩が二重スパイだったことを告げる。
「くそ、僕としたことがこの程度のことも見抜けなかったとは情けない」
父が苛ついた様子で爪を噛む。
前世のときと変わらない仕草、歳はさすがに老けていたが見た目的にはまだまだ若々しく見えた。
「親父……大人しく投降しろ」
「どうやって倒した堕ちた存在とはいえ仮にも神の化身だぞ人の手でどうにか出来るものではなかったはずだ」
父は悔しそうな顔で僕を睨む。
「手の内をさらすわけがないだろう、それより投降しないのなら無理やり拘束して連行するが」
「なぜ僕がそのような目にあわないといけない。あと少しで完成するんだぞ、むしろお前は協力すべきじゃないか」
「何を言っている。僕がお前に協力する訳がないだろう」
「何故だお前も大好きだった母親が蘇るんだぞ、何故協力しない?」
「それこそ何訳のわからないことを母さんは行方不明になっただけだ何で死んだと決めつける」
「……ああ、お前には言ってなかったな。母さんは死んだよお前のせいでな」
「ここにきて何を出鱈目なことをなぜ僕のせいで母さんが死ぬんだ」
「そんなのは美星が僕よりお前を選んだからだ」
そう言って父は自分が母を殺した経緯を説明し始めた。
僕は父の思考が理解出来ず頭を整理しようにもこみ上げる感情とゴチャ混ぜになり言葉を発する
ことができなかった。
「どうだ自分の罪を思い知ったか?」
僕は半ば無意識に父に一瞬で近づくと首を掴みそのまま壁へと叩きつけた。
「ゴッハッ」
首を掴まれ父親だったものが僕の手を剥がそうと必死に藻搔く。
「そんな下らない理由で母さんを殺したのか?」
僕は問い掛けると共に掴んだ首をはなす。
窒息寸前から開放され慌てて息を吸いながら僕を睨み返し答える。
「下らないとはなんだ愛する者が奪われたんだ、相手が息子だろうが許せる訳がないだろう」
僕はたまらず父の頬を殴りつける。
「ブヘッ、キサマ一度だけでなく二度までも実の父に手をあげるのか、この野蛮人め」
「野蛮なのはどっちだ、なぜもっと母さんとちゃんと話し合わなかった」
「ぺっ、それこそ何を今更。アイツは僕では無くお前を取った。裏切った女の言葉など信用できる訳がないだろう」
僕に殴らたせいで口に溜まった血を吐き捨てながら父親であるはずの男が告げる。
「それこそその程度の信頼で愛していたなどほざくな。自分の一方的な思いだけで相手を分かった気でいただけだろうが」
「ふん、美星に愛されていたお前に何が分かる。彼女は僕の全てだったんだぞ」
「それなら何故自分も愛されていたと思わなかった。母さんは間違いなくアンタも愛していた」
「はっはっ、何を言っているアイツは俺の前でハッキリと言ったんだよお前を捨てるようなら僕の元から去るとな」
「それはろくな話し合いもせずいきなり僕を排除しようとしたからだろう。どうせ母さんがどう思うかなんて考えもせずに」
「考える必要などないだろう、僕のことを本当に愛しているなら僕に従うはずだ」
「なっ、お前は母さんにただ命令に従うだけの人形になれと……そんなものがあんたが欲しかった愛情の形なのか?」
「自分の全てを認めてくれる存在を欲して何が悪い人間など他人に肯定されて初めて存在を確立出来る生き物だ、ならば相手のする事を全て肯定するのが愛情だろう」
「それなら何故母さんの行動を肯定してやらなかった」
「……最初に否定したのは美星だ。僕を否定しお前という存在を愛した。だから僕は美星の言葉を受け入れることは出来なかった。僕がやったことは間違っていない」
本当に科学者の言葉とは思えない稚拙な感情論。
父は人間として幼すぎた。それはまるで弟が生まれたことで母親からの愛情を奪われたと勘違いする幼い兄のようなものだ。
「こんなやつが父親だなんて情けない。アンタは間違いなく愛されてたよ」
「何を根拠に、言っただろう僕はハッキリと答えを聞いたんだ」
「はぁ、何でそれっきりで話を終える。何でもう一度話し合わなかった…………知ってたか母さんは僕の高校進学に全寮制の高校を勧めてきたことを」
「ふん、それになんの意味がある?」
「アンタ本当にそういう所は頭が悪いな。アンタは僕を家から追い出したかったんだろ? なら僕が全寮制の学校に入ればどうなる?」
「なっ、そんな嘘だそんな事美星はひと言も言わなかった」
「言わなかったんじゃない。あんたが言う機会を奪ったんだろうが!」
「そんな、嘘だ、嘘だ、嘘だ」
「母さんは言ってたよ、父さんと酷い喧嘩をしたけど強すぎる愛情の裏返しだろうって話し合って仲直りするための妥協案だから協力してくれって」
さすがにその時は理由までは教えてくれなかったがそもそも僕が原因なら言えるはずない。
「そんな……」
「だから、僕もOKした。あんな真剣な顔で母さんにお願いされたの初めてだったから」
もちろんどうしても嫌なら無理はさせられないと笑って言ってくれたけど目は悲しそうだったから僕は母さんの提案を受け入れた。
「嘘だ、今お前が作り上げたでっちあげだ」
「いま嘘をついて何の意味がある。結果はもう出ているあんたは歩み寄ることなく一方的に母さんを自分勝手な理由で殺した。その時点であんたは母さんから愛されることは二度となくなったんだよ」
「ははっ、ありえない美星が僕を愛さないなんて」
「なら、証明してやるよアンタの実験体。僕の遺伝子情報が必要なんだろ、だったらくれてやるよ。リオ先輩採血キット持ってるでしょう」
黙って話を聞いていたリオ先輩に尋ねる
「さすが後輩君だね。僕がいざというときのため常に採血用キットを持ち歩いているのを知ってるとはね」
以前自分で自慢していたのを憶えていただけだが言う必要もないだろう。
僕はそのままリオ先輩から採血キットを受け取ると自分の血を取り父親だった奴に渡す。
「必要なのは遺伝子情報だろ。血じゃ不満か?」
「ハハッ、ハハハッ。なんだ結局お前も美星を生き返らせたいんだな。良いだろう、だが蘇った美星は僕のものだお前を愛することなどないからな」
自信に満ちた表情で受け取った血液を研究施設の装置にセットする。
装置の先には大型のカプセルの中に液状化した輝く金属のような物体が丸くなって浮かんでいた。
親父は笑みを浮べてディスプレイのタッチパネルような物を操作する。操作に合わせて周りの装置が稼働し始める。
「ふむふむ、この世界でここまで科学的な装置を作り上げるとは中々やるね」
科学者としての視点で状況を観察する先輩。
「先輩。ああは言いましたが本当に大丈夫なんですよね」
「無論だよ。あの物質は形は後輩君の母君の形を取るかもしれないがそれだけだよ、そこに意思が宿ることなんてない」
確信を持って先輩はそう言い切った。
装置の先の金属体が装置の稼働に合わせて形を変化させ始める。
「これを注入すれば美星は蘇る」
親父だった存在が歓喜するように声をあげ、タッチパネルの赤く光る箇所を押す。
装置の稼働に合わせて軋むような音が広がり、カプセルの中も激しく泡立つ。
やがてカプセル内の金属体が人の形を取り始める。
徐々に顔も輪郭を形取り鼻や口などが形成されていく。そうして見た目には前世の面影にある母親とそっくりそのままの存在がカプセルの中に誕生した。
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