第45話 エイミィ本気出す


 あたしは放り投げた女を追いかけてダッシュする。なるべくクラリスを巻き込まないように離れた場所で戦うためだ。


 久しぶりにこの姿になるけど凄く体が軽くなる不思議だ。

 御主人様が言うにはこのベルトのおかげらしい何でもすべての力を倍加してくれる特別なものだと教えてくれた。

 なので走る速さも2倍だ、本当は2倍以上も出来るけど御主人様からは2倍以上はまだ使っては駄目だといわれている。

 あたしは御主人の言いつけを守れる良い子なので2倍以上にはしない、後で褒めてもらおう。



 放り投げてやった女はクラリスを虐めていた許せないやつだ、あいつの姉らしいがあまり記憶にはない、ただミィをいつも嫌な目で見ていた感じは何となく覚えている。


 先程吹き飛ばしておいた始原龍もこちらに向かってきていたので二人まとめて相手にする。


 まず始原龍に倍加した力で【滅殺剛波動掌】を叩き込む。

 始原龍はそれには耐えられなかったようで尻尾だけを残して体は吹き飛んで消えた。


「はぁ、何なのよアンタ急に強くなるなんてどんなチートを使ったのよ」


 私に投げ飛ばされた女が体勢をととのえフワフワと浮きながら私に文句を言ってくるがそんなことを言われても困る。


「御主人様からもらった力を解放しただけ」


 次のターゲットである女の方に向かって飛び蹴りをする。


「あんた本当になにものよ、グヘっ」


 女はあたしの蹴りを障壁を張って防ごうとしたが防ぎきれず、今度は地面に向けてて叩きつけられるように弾き飛ばされる。


 追撃しようとしたが横から割ってきた攻撃に邪魔された。

 尻尾だけだった始原龍がもう龍とはいえない色々な生き物が混ざりあった姿で襲いかかってきた。


「しつこい。早くクラリスを治療しないといけないのに」


 体の半分は溶けたような、もう龍とは言えない怪物にとどめを刺すためにあたしの最大級の技を放つために闘気を練り上げる。


 怪物はあたしの闘気に反応したのか首長の龍に姿を変え口から毒のブレスを吐き出した。


 直ぐにバックステップで距離を取ると遠距離技の【闘波】を放ちブレスをかき消す。

 その間に闘気と魔力を混ぜ合わせ拳に注ぎ込むと超高速で怪物に近づくと破壊力のみを追求した技【闘覇冥砕拳】を叩き込む。


 拳から瞬間的に注ぎ込まれた魔力と闘気が混在した力は制御を離れると反発しあい、その量に応じた爆発力を生み出す。


 耐えきれなくなった怪物は内部から発光し崩壊を始める。


「そんな、ありえない。物理でその子を倒すなんて」


 叩きつけられていた女が頭から血を流しながら立ち上がり、あたしを見ていた。


「次はオマエ。覚悟しろ」


 後から気づかれずに近づいてきてると思っているクズが声を出す。


「へっへっ、それはお前だ」


 不意打ちのつもりであたしに変なアイテムを使おうとしていたようだ。

 しかし、目を覚ましていたクズが近づいてきていたのは気配で分かっていたので軽く小突いて吹き飛ばす。


「ぶひゃあぁぁ」



「くっ、本当に使えないやつね、こっそり回復させてやったのに。仕方ない最終手段よ、キリア……4大魔王を全て降臨させなさい」


「ぐっ、いてぇ……あっ姉貴、いくら俺でも4体同時に憑依は無理だぜっ」


「大丈夫よ、こっちにはそれを制御する力が有るから」


 女はそう言うと魔法衣から四角い箱を取り出す。 

 その箱を崩壊寸前の怪物に向けると液体になってその中に吸い込まれていく。


「ホントなんだろうな姉貴、もし4大魔王の力が使えたら世界征服だって可能だぜ」

 

「もちろん本当よ私を信じなさいキリア……」


 女が優しく囁くとクズが頷き『魔王降臨』のギフトとやらで魔王たちを呼び出し憑依させた。


「ぐっえっ、姉貴、かなりキツイぜ早く制御出来るようにしてくれ」


「ええ、最後くらいは私の役に立ちなさい」


 女は怪物を閉じ込めた四角い箱をクズに向かって投げつけると呪文を唱えた。

 四角い箱から無数の触手が伸びクズを瞬く間に縛り上げ包み込む。

 

「あっ、がっ、ぐっ、あっアネキぃ、なにをなにおぉぉぉ、じだぁぁぁ」


 四角い箱に捕まったクズは吸収され体が見る見る萎んでいくと最後は全て取り込まれてしまった。

 四角い箱は真っ黒に変色すると大きくなり、立て続けに知らない魔族たちの姿に変わっていき、さっき倒した始原龍や八首龍の形を取りながら最後はクズの姿に戻った。


「ふっふっふ、最終テストは成功ね。見た目はちょっと問題だけど」


 女が言うようにその姿はクズの面影を残していたが3倍以上に醜く太っていて、髪も抜け落ち、目も虚ろで絶え間なく涎を垂らしていた。


「うげっ、気持ち悪い」


「ふふっ、見た目は最悪だけど性能は確かなはずよ、あの目障りな猫娘を捕まえなさいキリア」


 肥え太ったクズはうめき声を上げながらあたしに攻撃を仕掛けてきた両方の腕が八龍の頭に変化し噛みつきにかかる。

 直ぐに躱して毒のブレスに警戒したがブレスは吐かなかった、ただ不思議な匂いがすると思ったときには遅かった。


「これ、木天蓼またたびの匂い」


「へぇ、これは貴重なサンプル結果ねアイテムも一緒に取り込むとその効力も力にする事ができるのね、しかも相手に有効だと判断して使うなんて人間の時よりやるじゃないキリア」


 嬉しそうに女が呟く、うめくクズは体の至るところから手や足や触手を生やしそれぞれから攻撃を仕掛けてくる。


 あたしは平行感覚を失いながらも何とか躱して反撃のチャンスを伺う。しかしクズから発せられる木天蓼の匂いでどんどん視界の揺れが酷くなり意識が飛びそうになる。


「安心しなさい、直ぐには殺さないわよ。あの女の前でじっくりいたぶってから一緒に殺してあげるから、優しいでしょう私って」


 ぼやける意識で女の声を聞きながら迫る触手を躱そうとするが躱しきれず足に巻き付かれてしまう。

 そうなると動きを封じられてしまい、うめくクズの触手に絡め取られてしまった。

 

 朦朧とする意識の中、最後に大好きな御主人の顔が浮かびあがる。


『ごめんなさい御主人様。また…………』


 あたしは謝りながら意識を失った。



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