第46話 激震と共に
遠目からでもエイミィが繰り広げる激しい戦闘の様子が見て取れた。
ニ度爆発が起き轟音が鳴り響き、その後静かになった。
エイミィがやってくれたそう思った私の期待を嘲笑うかのようにクズ女が姿を現した。
「あら、お友達じゃなくてがっかりした」
私の表情から見て取ったのか楽しそうにクズ女が笑う。
「エイミィはどうしたの?」
この女がここにいると言うこと……最悪な展開も予想しつつ尋ねる。
「ああ、安心してお友達はまだ無事よ」
クズ女は芝居がかったように指を鳴らすと地面が割れ、そこから巨大な人型の化け物が這い出してくる。
その醜く太った化け物のお腹あたりにエイミィが触手で拘束され、磔にされる罪人のように囚われていた。
幸い酷い傷は負っておらず安心した。
「エイミィを解放しなさい。貴方の目的は私でしょう、その娘は私を守ろうとしてくれただけよ」
「何を言ってるの? こいつは私のことを投げ飛ばした上に蹴ったのよ許せるわけ無いでしょう」
クズ女はそう言うと何かの合図を出す。
合図に反応して化け物の触手が人間の拳に変わるとエイミィの頬を殴りつけた。
エイミィはぐったりしたまま動かず起きる様子がなかった。
「お願いやめて、代わりに私を殴れば良いでしょう」
「安心して貴方もいずれ殴って分からせてあげるわよ。でも今はこの猫娘のお仕置きタイムなの大人しく見てなさい」
クズ女は笑いながら触手を鞭のようにして叩きつけたり鎌に形を変えて切りつけたりしてジワジワと痛めつけていく。
「お願いやめて、やめてよぉ、お願いだからエイミィは助けてあげて下さい」
我慢出来なくなり私は情けなくも泣いて助命を嘆願した。
今のを危機的状況を招いた原因は私の判断の甘さからだ。
相手のクズオを侮り、兄様に認められたいとの功名心が先に立ってしまい今の状況に繋がった。
ダンジョンにもぐる前にも兄様から釘を刺されていたのに関わらずだ。
「アハッハッ、その顔、その顔が見たかったのよ。所詮あなた程度では義兄さんの妹は務まらないと実感したかしら無能さん」
私は返す言葉もなく黙り込むしかなかった。
「はい、私は兄様の妹には相応しくありません。だからこれは貴方に譲ります」
私は兄様からもらったバレッタを外しクズ女の前に差し出す。
こんな無様をさらしてグラシャス家はおろか兄様の妹として失格なのは確かだ。
せめて最後の誇りを胸にあのクズ女と刺し違えようと考えた。
「なによそれ、そんな物に価値があるとでも?」
「少なくともアナタと私にとってはとては貴重なはずよ、だって兄様自ら作成されたバレッタですから」
「なっ……それのどこに義兄さんの作ったものだという証拠があるのよ」
思ったとおり疑いつつも食いついてきた。
私はバレッタの魔力を少しだけ解放すると挑発気味に話を続けた。
「ここに兄様の魔力が封じられているわ、貴方も魔法の使い手ならわかるでしょう。兄様の魔力くらい」
私の言葉に合わせるかのようにバレッタが淡い光を放つ間違いなく兄様の魔力だ。
状況にそぐわないうっとりとした顔の私を見てクズ女が動いた。
「いいわ、本物だろうが偽物だろうがその綺麗な髪飾りは貰ってあげる」
「そのかわりエイミィは助けて」
「ええ、考えておくわ」
クズ女は断定しない言葉で答えると私に近づいてくる。
私はバレッタからの出ている魔力を反転させ残りの魔力を注ぎ込む。
この貯蔵された膨大な魔力を一気に解放して暴発させれば相討ちに持ち込むことは出来るだろう。
私のつまらない意地のせいで巻き込んでしまったエイミィだけでも助けたい、兄様には怒られるだろうけど……。
『ああ、また生まれ変わっても兄様の妹でいたいなぁ』
そんな事を心で呟き目を閉じる。
その瞬間地鳴りがして激震で大地が揺れる。轟音とともに大気が震え何もない空間に亀裂が走る。
驚き眼を見張ると亀裂はどんどん広がり、開いた空間から人影が飛び出してきた。
一人は私の元に、もう一人は巨大な人型の方へと向かって行く。後からさらに二人が向こう側から追いかけてくるように入ってきた。
なんと私の方に向かってきた人影はここに居るはずのない兄様だった。
私の元に屈むと抱き起こし声を掛けてくれる。
「大丈夫かクラリス……よく頑張ったな」
「……兄様、どうしてここに?」
「今はそんなことどうでも良い……お前とミィをこんなふうにしたのは彼奴等か?」
「はい……済みません兄様、私が至らないばかりにエイミィまで……私は兄様の妹失格です」
「はぁ、まったくお前は、妹に資格なんて必要ないだろう。優秀でなければ僕の妹として認めないなんて誰が決めた。仮にクラリスは僕が優秀でなければ兄として認めてくれないのか……僕達が培ってきた幼い頃からの絆はそんなに軽いものなのか?」
兄様が本気で私を叱ってくる。
私は愚かだ兄様に言われてようやく気が付くなんて、これではあのクズ女と変わらない自分の思いだけで行動して兄様の気持ちを考えていなかった。
今迄だって兄様は私がどんなに無様に失敗しても優しく励まして見守ってくれていた、一度も私を見限るような事はしなかったのに。
「そんな訳ありません。私と兄様の絆を引き裂けるものなどこの世に存在しません」
私は自信を持って言い切る。
簡単なことだった。私は周りなど関係なくただ兄様の事を信じればよかっただけなのだ、兄様が私を信じてくれているように。
「いい返事だ、アリシア急いでクラリスの治療と回復を新しい擬似足は僕が後で作るから問題ない」
空間の亀裂から兄様を追うように現れたアリシア姉様とアリア姉様が駆け寄ってくる。
「私のことよりエイミィを……」
「心配ない」
兄様がそう言って向けた視線の先を私も見る。
そこには双戟を片手に人型の化け物を一方的に蹂躪するクロエ姉様と、その片腕に抱かれて気を失ったままのエイミィの姿が映った。
「兄様……あとは……」
「ああ、後は任せておけ起きた頃にはすべて終わらせておく。二人共クラリスを頼んだ」
「「はい」」
そう言って立ち上がり人型の化け物の方へと向かう兄様の背中を見送るとアリシア姉様の温かな治癒の光に包まれながら意識を閉じた。
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