第33話 王家の双子
「どうされたのですか兄様?」
わざわざ兄様が転移してきたことに火急の要件かと慌てて尋ねる。
「いや、クラリス達が心配で少し様子を見に……」
どうやら優しい兄様は私の事を心配して見に来てくれたようだ。
学園にいた時もこれくらい頻繁に会いに来てくれても良かったのに。
「はぁ、メビウスは本当にシスコンよね」
「シスコンじゃない、妹が大切なだけだ。それに大切なのはクラリスだけじゃない、マリ達だってそうだ」
あまりの真顔にからかったはずのマリカ姉様が逆に照れてしまっていた。
横に居たエイミィが不安そうに尋ねる。
「御主人様、それはあたしも?」
「ああ、勿論だよミィ」
兄様の返答を聞いてエイミィが本当に嬉しそうな顔をして兄様に飛び付く、私だって無邪気にそうしたい時もあるが甘えると際限なくなりなりそうなので我慢する。
早く兄様と妹としてではなく姉様達と同じように肩を並べなければと改めて思う。
昨日。兄様とすれ違いになったクロエ姉様が兄様の前で臣下として挨拶をする。
「あっ……あるじ様。クロエリカ、御命令に従い妹様と共にダンジョン攻略に全身全霊で当たらせていただきましゅ」
噛んで涙目のクロエ姉様を温かい目で見守る兄様、慣れたものなのか気にした様子もなくそのまま声を掛ける。
「クロエ、忙しいところ済まなかった。
「ひゃい、あちらはモカが部隊を纏めていますので大丈夫でありましゅ」
「そうか……それにしてもクロエはその格好だと相変わらず可愛らしいな」
兄様は何気なく言ってるのかもしれないが、明らかに今のクロエ姉様には破壊力がありすぎる。
案の定、顔を真っ赤にして必死に取り繕う姿をみせる。
きっと武神のあの姿を部下が見たとしたら信じられずに卒倒するに違いない。
兄様が来てくれた事で私の気分も上昇し、そのまま屋敷を出てダンジョンの入場登録をするために冒険者管理局に向かう。
高難易度のダンジョンは入場制限されている事が一般的で、犯罪者などが侵入出来ないよう対策されているのが普通だ。
エンハイムでは冒険者管理局を置くのが定石で特殊なのは兄様が領主をしているハルンホル州くらいだと聞いていた。
しかし、その管理局で折角兄様と会って上昇気分になっていた私の気持ちを台無しにしてしまう連中に会うとは思わなかった。
「あら、もしかして、そこにいるのはクラリスクリアハート様じゃありませんか」
着飾ったドレスと綺羅びやかに輝く装飾品を身に纏い、スゥインスタ王国からの留学生にして第2王女、カリアーナ・スゥインスタが私に話し掛けてきた。
そして彼女がいるという事は当然、双子の弟である、第2王子キリアード・スゥインスタも一緒にいるということだ。
「何してるんだ、公爵令嬢のお前がこんな所にいるなんて? もしかして俺に会いに来たのか!」
馴なれしく自信過剰気味に話しかけてくる、とても王族とは思えない粗野な男だ。
本当は相手にしたくない二人だが、仮にも他国の王族であるので無視するわけにもいかず適当に話を合わせる。
「これはカリアーナ様とキリアード様、私もこのような場でお会いできるとは思いませんでした」
「ふん、話を聞いていたのか、俺は何故ここにいるのかと聞いているんだぞ」
挨拶だけ済ませてすぐにでも離れたかったのに、キリアードがしつこく話し掛けてくる
「これからダンジョンに潜るのでその申請に来ただけです」
「なんだ、お前もか? それなら俺たちのパーティに入れてやっても良いぞ、なにせ自国からS級の冒険者を呼び寄せたんだ、この国のダンジョンくらい楽勝だ」
「キリア、何を勝手に決めてるの、駄目に決まっているでしょう!」
頼みもしてないのに、勝手にパーティに加入を促され、承諾してもないのに断られた。
「お誘いは有り難いのですが、すでにパーティメンバーは決まっておりますので」
後ろに控えていた姉様達に目線を送る。
「はあぁ、本当にお嬢様だな、メイドを引き連れて迷宮探索ごっことはな、そんな考えの甘いヤツは姉貴の言うとおりパーティには入れられないな」
馬鹿にするようにキリアードが笑う。
「クラリス、知り合いのようだが、この失礼な方々はどなただ?」
黙って後ろで話を聞いていた兄様が前に出ると話に入ってくる。
「兄様、こちらの方々はスゥインスタからの留学生でカリアーナ第2王女とキリアード第2王子になります」
「ほう、スゥインスタの王家の者はまともな挨拶も出来ないらしいな」
「えっ…………あなたは?」
「なっ、なんでお前……」
二人が兄様を見てあ然とする。
「こちらは私の兄で次期グラシャス公、メビウス・グラシャスです」
「へっ……へぇー、オマエなんかが公爵家の跡取りなんだ」
キリアードが兄様に対して失礼な発言をする。
いくらスゥインスタ王家の者とはいえ言葉が過ぎる、流石に看過出来ず抗議しようとするが先にアリア姉様が動いた。
「今の発言、スゥインスタ王家の正式な声明と捉えて宜しいのでしょうか?」
「あぁん、何言ってやがるメイド風情が!」
「分かりませんか? 貴方の発言をスゥインスタ王家のものとするなら、スゥインスタ王家はメビウス様の公爵位継承に異を唱えると言うことです。
エンハイムの公爵位に対して、いつスゥインスタは口出し出来るほどの大国になられたのでしょうか、こちらは正式に抗議してもよろしのですよ」
アリア姉様が捲し立てるようにキリアードを問い詰める。
「けっ、ただの言葉の綾じゃねえか、なに冗談にマジで返してんだよ、分かれよクソが」
「言葉の綾の意味をもう一度調べ直してきなさい、小国とは言え王族が思慮の足りない言葉を使えば自国を辱めることと同じですよ」
完全にアリア姉様にやり込まれ悔しそうな顔をするキリアードにカリアーナが声を掛ける。
「キリア、もう行きましょう、ここでこのような方々に構っている暇などありませんよ」
お前達から声をかけてきたのだろうがと怒鳴り散らしたい気分だったが、そのせいで話が長引く方が嫌だったので黙っておく。
構ってられないと言いつつ、何故かしきりに兄様を気にしながら二人はその場から去って行った。
私達も余計な邪魔をされてしまったが、冒険者管理局でパーティ登録し問題無くダンジョンの入場許可証を得た。
そのままダンジョンに向う事にし、兄様の飛翔魔法でパルラキア山脈中腹にある入り口まで送ってもらった。
その後、兄様は別の要件があるからとまた転移で帰っていった。
ダンジョン入り口に立つ守衛に入場許可を見せゲートをくぐる。
これから、いよいよ私達はダンジョン攻略を開始する。
このパルラキア地下遺跡群は完全地下迷宮型で名前の通り遺跡がダンジョン化したものだ。
現在までの最高到達点は65階でこの時点で難易度レベルは6、傾向から予想されている深層階は100前後ではないかと言われている。
プランでは低層階は行けるだけ進み、30階から下の中層階以降は1日10階層を目標に進んで行くことを相談して決めていた。
兄様には自分の命を最優先と言われたが、エイミィと姉様達の力を借りる以上必ず最下層まで到達して見せる。
私は兄様から頂いた剣にそう誓った。
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