第32話 パーティ結成
クロエ姉様の変貌ぶりに驚きつつ全員揃ったところで玄関広間に移動する。
それから改めて出発前に最後のパーティメンバーであるクロエ姉様から自身の説明を受ける。
「あの、その……わたくしはクロエリカ・ヴァルジュ三席になります。クラスは『ウォーマスター』で称号は『武神』でしゅ……武器は全般的に使いこなせますが戟と弓が特に得意でしゅ…………ゴメンなさい、ごめんなさい二度も噛んでゴメンなさいですぅ」
二度噛んだことをひたすら謝られてしまう、しかも最後も噛みそうだった。
「いえ、クロエ姉様、気にしないでください。それで姉様の封具は?」
「ありがとうございます妹様。わたくしが主様から授かった封具は『
最後の最後にまた噛んで涙目のクロエ姉様。
『武神』と恐れられていた姿はそこに無く、一抹の不安を感じてしまう。
「大丈夫ですよクラリス様。今はあの様子ですが戦闘になると元に戻りますから、試しにご覧ください」
そう言うとアリア姉様は突然スカートの片側を太ももまで捲りあげるとホルダー付きのガーターリングから短刀を取り出し、私に見えない速度でクロエ姉様に投げ放った。
しかし、涙目のクロエ姉様は超高速で飛んで来た短刀の刃先を二本指で受け止めると、柄の方に持ち直して投げ返した。
「いきなり投げてくるなんて、危ないじゃないですかアリア」
クロエ姉様の言葉と共に投げ返されてきた短刀の柄の部分をアリア姉様は掴み取ると、そのままホルダーに収め直した。
「いかがですか、クラリス様。本気のクロエはこんなものでは有りませんよ」
私の不安が顔に出ていたのかもしれない、それを察したアリア姉様が気を利かせて払拭してくれようとしたようだ。
「私などより遥かな高みにいる方に対して失礼なことを考えてしまいました……ごめんなさいクロエ姉様」
「なんで妹様が謝るんですか? 短刀を投げてきたのはアリアですよ」
メイド服に身を包む前と比べると、やはり覇気は感じられないが先程の動作を見れば私が心配するなど烏滸がましいことが分かる。
「いえ、私がクロエ姉様の力を信じられなかった事と、余計な手間を取らせてしまいました事への謝罪です」
「よくわかりませんけど、妹様。これからダンジョン攻略宜しくお願いしますね」
「こちらこそクロエ姉様。頼りにしてますので宜しくお願いします」
自分の浅はかさを反省して深く頭を下げる。
状況を見守っていたマリカ姉様が手をひとつ叩いて仕切り直す。
「よし、これで全員集合ね。とっととダンジョン攻略するわよ」
「攻略の前に大事なこと、クラリス、名前なんにする?」
エイミィが突然そんな事を言いだす。
私が不思議な顔をしていると思い当たったアリシア姉様が『ポン』と手を打つ。
「そうですよ〜、ダンジョンアタックするなら決めませんと〜、パーティ名を〜」
「確かに、高ランクダンジョンの攻略にはパーティ名での申請が必須。私としたことが迂闊でしたね」
「えー、そんなの何でも良いでしょう。とっとと行くわよ」
「そのパーティ名、わたくし今思いついたのですが『スーパーミラクルレディフォース』なんてどうでしゃう」
クロエ姉様が微妙なパーティ名をあげた上に噛んだ。
私も咄嗟に考えた自分の願望をただただに含んだパーティ名を告げてみる。
「あの、私も考えてみたのですが『メビウスラヴァーズ』なんてどうてしょうか?」
「なっ……いえ……むしろ、宜しいのでは!」
「うふふ〜、愛があっていいんじゃないでしょうか〜」
「あっ、あるじ、主様のこっ、恋人なんて、光栄の極みでしゅ」
「クラリス、ぐっ!」
四人の賛同は得られた。
しかし、ここでマリカ姉様から待ったが掛かる。
「いやいや、ないでしょう。そんなの恥ずかしいに決まってるじゃないの」
「マリカはメヴィ様の恋人が恥ずかしいのですか?」
「そんなワケないでしょう! 私が言いたいのはメビウスが恥ずかしがるって事と、そもそも公爵家嫡子の恋人達なんて吹聴するようなパーティ名もどうかと思うし」
マリカ姉様の最もな正論に余りに自分本位過ぎたと気付かされる。
「それならマリカ、他の案だす」
エイミィに促され、マリカ姉様が考え込む。
「…………そうね『
「なる程〜、星は私達を意味して〜、グレイスはいずれそう呼ぶ御方のことですね〜」
マリカ姉様の意図を咄嗟に読んだアリシア姉様が意味を教えてくれる。
確かに直接的な表現も良いけど、言葉の裏側に秘めた感じも良いなと感じた。
「即席で考えた割には良く練られてます……マリカ、貴方実は前から考えていましたね」
アリア姉様がそう指摘すると慌ててマリカ姉様が否定する。
「そっ、そんな訳ないじゃない、たまたまよ、偶々閃いただけなんだから」
「そうなんですか? でも良いと思いますよ。主様の恋人を直接名乗るのは確かに恥ずかしいですし」
「クラリスどっち? あたしはクラリスが決めたほうでいい!」
アリア姉様も同じようで私を見て頷く、私が提案したパーティ名は私の欲望を体現したもので捨てがたいが……マリカ姉様の言うとおり兄様に対する配慮が欠けていた、そうなれば選択肢はあってないようなものだ。
「マリカ姉様の『
皆も異論はないようで今度こそ満場一致で決まるとタイミングを測ったかのように兄様が転移してきた。
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