第29話 アリシア合流


 夕食時になり晩餐会など煩わしい事が嫌いな母上に合わせ、身内だけの食事会とし、その頃にはいつもの母上に戻っていた。


 僕も気になる事は気になったが、母上が僕に危害を及ぼす存在を放置するとも思えなかったので、母上を信じて言及しない事に決めいつものように接する事にした。


 その日はアリアとマリと一緒に食事と会話を楽しみ、マリが言いだした女子会に参加すると悪乗りした母上と、慌てて止めに入るアリアとで口論していたが、結局2対1で押し切られ二人に連れて行かれてしまった。


 次の日、母上はアリアを連れ立ってハルンホル領内の現地視察に行った。

 残ったマリがダンジョン攻略の事前準備を進める間、僕もクラリス用の装備を準備しておく。


 昼頃になるとアリシアから連絡が入り、迎えに来てほしいと打診があった。

 幸い転移可能な領内だったので迎えに行き、アリシアを転移で連れ帰る。

 


「旦那さま〜、迎えに来て頂き〜、ありがとうございます〜」


 間延びした話し方でアリシアが答える。

 前に会った時と変わらない、閉じられた瞳と足首まで届きそうなをほど伸びた紫紺の髪、ダークエルフ族特有の長い耳と褐色の肌。

 何より特徴的なのはアリア以上に豊満な胸で、動くたびに揺れる様は圧巻だ。

 僕と出逢う前は『呪われし永遠の乙女カースドメイデン』として古の魔女の呪いで男に触れると相手の生気を吸い取り呪い殺す体質で一部から恐れられていた。


 今は僕と共に呪いを解き、星十字の一人、自称『盲目の守護者ブラインドガーディアン』として共にダンジョン攻略に励んだ。

 僕がハルンホル領主になった後はライフワークとしていた名もなき神の研究に戻っていた。


「アリアから連絡は来ているとは思うが、パルラキア攻略に力を貸してほしい」


「もちろんですよ〜、旦那様のお願いなら最優先で聞いちゃいますよ〜」


 目の見えない筈の彼女がニコニコしながら迷いなく僕に抱きついてくる。

 相変わらず胸の破壊力は凄まじく、僕でさえ思わず口元が少し緩んでしまう。


 食事もまだだったとの事なので一緒に取ることにし、そこでマリとも顔を合わせる。


「うげっ、アリシア来てたのね」


 目が見えないため苦笑いを浮かべるマリなど気にした様子もなくアリシアが嬉しそうに話し掛ける。


「マリカちゃ〜ん、久しぶり〜、元気だったかな〜」


「ああっ! そのテンポ相変わらずやりにくいわね、でも貴方が直ぐに合流出来て良かったわ。回復役がいないと流石に心配だもの」


 マリの言う通りアリシアは回復系魔術のエキスパートなのでダンジョン攻略には欠かせない存在だ。

 僕も連絡が付かなければ探し回るつもりだった。


 3人で食事を取りながら、離れていた間の話をし、アリシアのテンポにマリが乱されながらもなんだかんだで楽しく食事を済ませた。


 午後にクロエからも連絡が入った。

 遠征訓練中のため直ぐには離れられないとの事で、予定ではメイサに到着できるのは三日後になると報告を受けた。


 夕刻には視察から帰ってきた母上が、昨日と打って変わって僕にベッタリと張り付いて大変だった。 

 終いには僕と一緒に寝るとか言い出す始末でアリアとマリから止められ渋々諦めてくれた。


 しかし、今度はマリがちゃっかり僕と寝床をともにしようとしたのをアリアに止められ、どちらが閨を務めるかで揉めそうになったところを、久しぶりだからという理由でアリシアが権利を勝ち取った。


 僕も久しぶりに堪能したアリシアの胸は、いつ味わっても変わらない至福の楽園だった。





 翌朝、指先に柔らかな感触を感じ目が覚める。

 どうやら、昨日の夜の惰性から無意識に手を動かしていたらしい。

 いつもならアリアが起こしに来て身支度を手伝ってくれるが今日は遠慮してくれたようだ。

 

 そのままアリシアを起こし一緒に身支度を整えると朝食を僕と一緒にしようとしていた母上が待っていた。


「あらあら、昨日はアリシアちゃんとお楽しみだったのね。胸なら私だって負けてないのに」


 母上が胸を震わせ強調する。

 確かに目のやり場に困ることもあるが、やはり生みの親にはそういう気持ちにはならないので冷静に流すと席に着く。

 

 アリアとマリも待ってくれており、5人で朝食を取ると一息ついて母上に転移で送る旨を申し出る。 

 母上は折角の自由になれる時間を楽しみたいからとやんわり断ると、来たときと同様に最小限の護衛を伴い馬車で帰っていった。

 

 母上を見送った後、僕達もダンジョン攻略の拠点となるメイサの街に転移で飛んだ。





 メイサの街にたどり着くと母上からの勅令を携え街長の所へと向かった。

 メイサの街はサクセン州に所属しており、サクセン州はグラシャス家陪臣の一人、カーネオン伯爵が治めている。

 しかしメイサは地方都市なので行政官ではなく街の有力者が街長を務める習わしになっていた。


 今の街長は商家で街一番の金持ちらしい、この辺の情報はアリアの事前報告で知り得ていた。


 情報通り街長の屋敷は街で一番大きく分かりやすかった。

 出向くと雇われの傭兵らしき者に呼び止められる。


「おい兄ちゃん。綺麗どころ連れて何しに来た。今日は来訪者が来るなんて聞いてねえぜ、約束がねぇならとっとと帰んな」


 男は『シッシッ』と追い払うように手を振る仕草を見せる。


「無礼ですよ、メビウス様はグラシャス家に連なる者。街長ごときに会うのに何故面会の許可が必要なのです」

 

 普通に要件を尋ねてくれば大人しく内容を伝えたのだが、不遜な態度にアリアは不快感を示し、あえて僕がグラシャス家の関係者とだけ伝える。


「ちょっ、ちょっと待て、証明は何か証明するものは無いのか、いくらお貴族様でも言葉だけではさすがに通すわけには行かない」


 アリアの言葉に少し萎縮したが、守衛としての役目をきちんとこなす姿勢は見直した。


「この書簡の封蝋の印を確認なさい」


 アリアが母上から頂いた書簡を傭兵の男に見せるが、男は印章の確認ができなかってようで、慌てて屋敷に戻ると確認できる者を連れてきた。

 執事らしき男は印章を確認すると深く頭を下げると、守衛の無礼を謝罪して屋敷の中へと案内してくれた。


 応接間に通されると直ぐに慌てた様子の街長がやって来て改めて謝罪される。


「大変失礼しました。私はこの街の長を努めておりますガノンと申します。メビウス様にはご機嫌麗しゅう……」


「無駄な挨拶は良い、要件はこの書簡に記されているので確認してくれ」


 僕は母上からの勅令が記された書簡を手渡し街長に確認させる。


「……公爵の命、承りました。直ぐに滞在用の屋敷等を準備させますので半日お待ち下さい」


 額に汗をかきながら、ペコペコとしきりに頭を下げて僕の機嫌を取ろうとするあたり商人気質は街長になっても変わらないらしい。


「分かった。ところで復興の状況はどうなのだ?」


 もうひとつの目的であるキョウカ達の及ぼした被害状況を確認する。

 本来は無関係ではあるのだが前世の関係者がしでかした事に対して何も思わないわけではなかった。


「はい、多方面から支援を頂き順調に復興しております」


「そのようで……特にスゥインスタ王国から多額の資金援助があったようですね」


 アリアが独自に調べた帳簿のようなものを手に取りガノンに告げる。


「その、スゥインスタ王国とは商人時代から懇意にしていたもので、その伝手と言いますか……」


「経緯は良いのです、見返りは何だったのですか?」


「えっと……その、パルラキア地下遺跡群でのアイテム取得権を求めて来まして、カーネオン様にお取次ぎした次第で」


 通常自国所属のパーティが他国でダンジョン探索した場合、発見したアイテムの持ち出しにはその国の許可を得るのが通例だ。

 ダンジョンには稀にだが軍事的な脅威になりえる掘り出し物も発見されるからである。


「カーネオン卿は権利を認めたと」


「はい、スタンピードの直後ということもあり、何より余りにも多額な資金援助だったもので……その不味かったでしょうか?」


「いや、カーネオン卿の判断を批判するつもりはない。それより滞在中の間、クラリス達のことを宜しくお願いする」

 

 カーネオン伯爵の判断も分からないでもない、スゥインスタ王国はエンハイムに比べれば小国でさしたる脅威になるとは考えなかったのだろう。


「畏まりました。ハイルーラ商会の総力を持ちまして事に当たらせて頂きます」


 ガノンは頭を下げて精一杯の愛想笑いで媚を売ってきた。

 商魂逞しいとはこの事で、ある意味ここまでくると逆に感心する。

 そんな最後まで愛想笑いを崩さないガノンに見送られ屋敷を後にした。



 

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