第30話 クラリス&エイミィ
今日、ようやくメイサの街に到着する。
学園から馬車に揺られての旅はグラシャス家特注仕様のおかげで快適だった。
しかし護衛と御目付役がいなければもっと快適だったのにと思う、その辺の魔物や野党なんて私とエイミィがいればどうってことないのだから。
その点、兄様は転移なんて使えるから自由に行動出来て羨ましい。
私も転移が使えれば毎日のように兄様に会いに行くというのに、肝心の兄様は中々私に会いに来てはくださらない、もっと顔を見せにきてくれればエイミィだってきっと喜ぶはずなのに……。
「クラリス、ここからどこいく?」
ちょっとだけ物思いに耽っていた私をエイミィの言葉が現実に引き戻す。
「まずは街長に到着の挨拶を、上手く行けば兄様に会えるはずです」
「御主人様、もう来てる?」
エイミィが可愛らしく首を傾け私に尋ねる。
彼女は猫人族の中でも更に珍しい森の民とも呼ばれるフォレスティという種族で兄様が森で彷徨っているところを保護したらしく、それからはお兄様に懐くと直属の
耳をピョコピョコと動かし兄様に会えるのを楽しみにしてるのがひと目で分かる。
「ええ、今日、私が到着することは母さまから伝えられているはずですから」
私も早くお会いしたい、以前お会いしたのは私の生誕祭の時なのでもう三ヶ月も経つ。
「クラリス、はやく! はやく!」
「分かってます、私も同じ気持ちですから、あと少しで到着するはずですから辛抱してね」
私の言葉通り、しばらくすると馬車が止まり、それなりに大きい屋敷の前に着く。
お供の者が屋敷の守衛と話をすると、慌てて守衛は屋敷に駆け込んだ。
しばらくすると着飾ったちょっと太めのおじさんがこちらに走ってきた。
「申し訳ありません、急ぎ屋敷は準備させておりますので今しばらくお待ち下さい」
かなり慌てていた様子から察するに既に兄様はここに来て立ち去った後なのだろう、そうなるとここには用がない。
早々に挨拶を済ませると兄様の行く先を尋ね、そこに向かった。
向かった先、メイサの街の有名な食事処、太古の晩餐亭というのころでようやく兄様を見つけた。
姉様達に囲まれデレデレしている姿にちょっと腹立たしく思いつつ、私だってあの輪に入れればと思ってしまう…………。
私、クラリスクリアハートと兄様とは確かに兄妹だけど厳密に言えば従兄妹の間柄だ。
私を生んで直ぐに亡くなったという生みの親は母さまの妹にあたり、その関係でグラシャス本家に引き取られることになった。
つまり、エンハイムではやり方次第では婚姻が可能ということだ。
エイミィも
「クラリス、いた、御主人様、いた!」
エイミィが仮にも猫人族なのに犬のように尻尾を振り、主を見つけた忠犬のように兄様へ迷いなく直進して行く。
兄様もエイミィに気付くと立ち上がり、そのまま突進してきたエイミィを受け止めると、二言三言何かを話し、柔らかくカールした桃色の髪をワシャワシャしながら頭を撫で始める。
一歩出遅れたが私も負けじと兄様に向かって駆けだすと愛しい人の名を呼ぶ。
「にぃさま〜」
兄様は私にも気付くと、いつも見せてくれる優しい笑顔を向けてくれた。
抱きついているエイミィとは逆方向の空いたスペースに体を滑り込ませちゃっかりと抱きしめる。
「久しぶりだな、クラリス。元気にしていたか?」
「はい、エイミィも居てくれたので」
「そうか、エイミィもありがとうな、クラリスの力になってくれて」
兄様がご褒美とばかりにエイミィの頭をもう一度撫でると、エイミィが嬉しそうに目を細める。
「うん、御主人の役に立てて嬉しい、クラリスとも友達になれた!」
「そうか、学園で不都合はないか? 大分改善されたとは思うが」
兄様は母さまと共に貴族実力主義だった学園を貴族以外も入学できる完全な実力主義の学園へと変革させた。
それによりエイミィも私の側付きとして一緒に学園に入学することが出来たのだ。
「はい、貴族派にはまだ不満を抱く者は多いですがもともと実力主義だったことが幸いし、力を示せば自然と周りに認められますので」
「うん。あたし強い、最初絡んできた奴ら、いま子分にしてる。学園、クラリスも一緒で楽しい!」
私の側付きとはいえ獣人のエイミィは最初に目を付けられた。
しかし、一介の学生が星十字に敵うはずがない、瞬殺でボコられ、その時の恐怖からエイミィの言うことには逆らえなくなっていた。
「フフッ、そうかクラリスもありがとう、ちゃんとエイミィを見てくれて」
そう言って兄様は私の頭もナデナデしてくれる。
至福の時間に思わず惚けてしまうが横からかけられた声が再び私を現実に呼び戻す。
「クラリス様、お元気そうでなにより。エイミィも相変わらずね」
「クラリスは相変わらずのブラコンね。エイミィも元気が有り余ってるみただし」
「クラリスちゃ〜ん、エイミィちゃ〜ん、私は元気だよ〜」
三者三様の挨拶。
母さま以外で最も敬愛する方達、憧れと同時に常に兄様に寄り添う姿は嫉妬の対象でもある。
「姉様方、お久しぶりです。今日も兄様と優雅にお食事なんて羨ましい限りです」
なのでつい皮肉混じりで答えてしまう。
「それなら、今からでもお隣に、お昼はまだ食べてませんよね」
アリア姉様にそう諭されると子供っぽい嫉妬心が逆に恥ずかしくなる。
しかし兄様の隣という誘惑に負けると兄様が座っていた席の隣に腰掛ける。
エイミィは兄様に引っ付いたまま膝の上に座ろうとする暴挙に出たためマリカ姉様に咎められて渋々私と挟みこむ形で兄様の隣に座った。
そのまま私とエイミィの分の料理を追加で注文し楽しく昼食の一時を満喫していると、街長からの使いがくる。
拠点となる屋敷の準備が整ったので迎えに来たとの事だった。
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