第28話 出自
公務の話が終わったのでお茶を持ってこさせ皆で談笑する。
ひと通り話し尽くしたのか、準備のためにと、アリアとマリが部屋から出て行き再び母上と二人になる。
「相変わらずいい子たちね、アリアちゃんもマリカちゃんも、きっと良いお嫁さんになってくれるわ」
「はい、いつも甘えてばかりです」
「ふっふっ、それなら、あの娘達が甘えてきたときには、とことこん甘やかしてあげなさい。私が出来なかった分も…………」
遠い目をして母上が語る。
僕の知らない父上を思い出しているのだろうか?
今までこの世界においての自分の父について母上に尋ねたことはない。
周りもその話は禁秘な雰囲気で、あえて僕も聞こうとはしなかった。
しかし、最近、異世界転移者が現れるようになり、キョウカまで転生者として僕の前に現れた。
リオ先輩が言うように意図的な何かを感じざるを得ない。
それに僕は他の転生者と違い、覚醒した時の莫大な魔力の影響によって髪の色が黒から灰色に、瞳も金色に変わったのだ。
それ以前は目元だけは母上に似ていると言われたことはあるが、この世界では珍しい黒髪、黒い瞳で前世の容姿そのままだった。
母上は当たり前のようにその事を受け入れているが改めて考えると違和感がある。
そこで僕はひとつの仮定にたどり着く、僕の父は異世界転生者だったのではないかと。
そして転移者は僕の前世での関係者である可能性が高い、そうなると父親は忌々しいことにあの男ではないかと考えたくない事を考えてしまう。
思い出したくもないあの男……前世での父親の顔が浮かび、あの男に母上が奪われた気がして醜い嫉妬心が心に渦巻く。
「あらあら、どうしたのそんなに怖い顔をして」
母上が拗ねた子供をあやすように優しく話しかけてくる。
その優しい声が子供っぽい感情に流された僕の心を穏やかにする。
「母上、聞きたいことがあります」
冷静さを取り戻し母上をしっかりと見据える。
母上も僕の雰囲気から察してくれたように緩やかな空気から凛とした佇まいに変わる。
「何でしょうか?」
「父上のことです!」
もし、仮定通り、僕の父が転生者だっとしたら、そこには最近聞いた光り輝く人なんて怪しい存在も関与しているのではないか、そう思えてしまう。
「そう…………もともと隠すつもりはありませんでした。メヴィちゃんが知りたいと望めば可能な限り説明するつもりでしたよ」
「それでは、教えて頂いても宜しいですか?」
僕は覚悟を決めて話を聞くことにした。
「まず先に言っておきます。メヴィちゃんがどんな存在であれ私にとってはお腹を痛めて産んだ可愛い息子に変わりはありません」
母上の穏やかながらも強い意志を感じる言葉に胸が温かくなる。
「メヴィちゃん……貴方は厳密に言えば異世界からの転生者ではありません、どちらかと言えば異世界転移者に近い存在です」
母上が話した言葉の意味を考える。
先程、母上はお腹を痛めて産んだと言った、しかし転生者ではないとも。
そこでもうひとつの仮定が思い浮かぶ、最初に想定していた通り父が転移者だとして、僕はその関係性に紐付けされる形で存在が確定されて、この世界に生まれてきたのではないかという事だ。
つまり、一番考えたくなかった、この世界でも、あの男の息子という存在として生を受けた可能性があるという事を…………。
あの男、前世での父だった
企業の研究員で家に帰ってくることも少なく、帰ってきても僕と話すことなど無かった。
そしてあの日、母さんが失踪した時も同じで僕がいくら訴えても聞く耳を持とうとせず、一度も本気で探そうとしない上に、職場から帰ってこようともしなかった。
母さんが男を作って逃げたと誹謗中傷された時もそんなことあるはず無いと知っていたのに否定することなく母さんの名誉を守ろうとすらしなかった。
そのくせ直ぐに再婚するとあの最悪な奴らを家に招き入れた。
そいつらのせいで僕がどんなに酷い目にあっていたのかも知っていたのに無視された。
最後は彼奴等の話しか信じようとせず実の息子である僕の方を家から追い出した。
その時、僅かに信じていた血の繋がりさえ否定された絶望感は今でも忘れられない……。
そんな過去の記憶に僕が囚われていると、思い詰めてると思われたのだろう。
母上が優しく声を掛けてくれた。
「いきなりこのような事を言われて困惑するのも分かります。ですから1から順を追って説明しますね」
正直、あの男との馴れ初めなんて聴きたくなかったが、母上から語られた僕自身の出自の真相は想定していたものより更に斜め上を行くものだった。
母上によると僕は上野匠海として死にかけの状態でこの世界に転移して母上の前に現れたらしい。
僕にはまだその死にかけていた時の記憶はないのだが、状況的には既に手遅れで死を待つしか出来なかったため、母上は禁呪のひとつ【
つまり、この世界において僕には父は存在せず、母上も親しくしていた男性はいなかったため、伝説に語られる処女懐胎を成し得る結果となった。
当然、周りからは訝しげに見られたそうだが、そんなものに臆する母上では無い。
僕を無事に生んでくれて、周囲にもその正当性を武力と権力、持ち得る力全てを使い、王家も巻き込んで僕という存在を周りに認めさせたそうだ。
「つまり、母上は命の恩人でもあるわけですね。ありがとうございます僕を助けてくれて」
「止めて、そんな、褒められる事ではないの。私は私の都合で貴方を異世界から召喚したのよ、貴方はただ巻き込まれただけ、巻き込んだ私はその責任を取ったに過ぎない。だから貴方はお礼なんて言う必要ないのよ本当に……」
有無を言わさぬ強い口調で言われ、少し驚いたが母上としては、その事で逆に畏まってしまわれるのが嫌なのかもしれない。
「分かりました。少しと言うかかなり驚きましたがそれでも貴方が今の僕の母上と言うことに変わりはありませんよ」
生まれるまでの経緯はどうあれ、生んでくれたのは間違いなくこの母上で、僕に向けてくれた愛情は間違いなく本物だったと感じている、それだけは疑う余地はない真実だ。
それにというか寧ろ、あの男の息子として転生したのではないと知って安心した。
「ありがとう、まだ私を母と呼んでくれて。私にとって、これ程嬉しいことはありません」
そう言って微笑んでくれた母上の瞳には涙が滲んでいた。
僕はその姿に何故か胸がチクリと痛んだ。
母上はそれ以外の事も説明してくれ、僕の記憶が他の転生者と違い、年を追うごとにその年齢に合わせて記憶が甦るようになっているのも禁呪で転生した影響だと言っていた。
合わせて僕のもうひとつの懸念材料についても尋ねてみた。
「もうひとつ聞きたいのですが、母上は光り輝く人なるものと遭遇したことはありませんか?」
「…………そうですか、貴方も会ったのですね」
そう返答したということは母上も例の光り輝く人を知っているらしい。
「いいえ、最近会った転生者から聞きました」
「では、直接会ったわけではないのですね」
「はい」
母上が目を瞑り考え込む仕草を見せる。
「それでは、まだ私から話せることはありません、貴方の記憶が完全に戻れば話せることもをありますが、今はまだその時ではありません」
そう答えた母上の瞳から強い決意が読み取れ、これ以上は何を聞いても答えてくれそうになかった。
「つまり、まだ待たないといけないと言うことですね」
「ごめんなさい、貴方自身にも大きく関わる出来事ととしか、しかし、その時が来れば包み隠さず話させて頂きます」
母上は申し訳なさそうに頭を下げると珍しく一人にして欲しいと言うので僕は貴賓室から離れる。
別れ際に見せた母上の複雑な表情から色々と思うことが有るのだろう。
結局、分かったこともあったが、核心部分がボヤかされてしまい何ともモヤモヤしたものが残る。
待てば教えてくれると言うが、待つだけなのはもうゴメンなので自分で調べていくことに決めた。
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