第18話 空での邂逅
僕は上空に上がると、黒竜に乗った白髪で真っ白い肌の女と遭遇する。
色素の抜けたアルビノ、吸血種の特徴の一つだ。
前世の伝承とは違い日の光を浴びて灰になることは無いが色素が薄いため同じ様に日の光を嫌い、日中は殆ど外に出ないらしい。
「お前が主犯だな! 投降すれば貴殿の祖国と掛け合う場は設けてやるぞ」
黒竜の背に乗った女に一応投降を呼びかける。
予想通り吸血種が絡んでいたことでレーグランドの息が掛かっているのはほぼ間違いなさそうだ。
まあ、本人は絶対に認めないだろうけど。
「うそっ!」
投降を呼びかけた僕と目があった女はそう呟くと輝きを増した目で僕を見てきた。
悪寒を感じたが魅了を掛けてきたようではなかった。
「もう一度言う、黒竜に掛けた魅了を解き、直ちに投降しろ、逆らえば強制的に排除する」
僕は言い得ぬ寒気を感じながら、再度投降するように警告する。
「ああっ、間違いない。その声、その姿、髪の色は違うけど貴方、タクミでしょう。私よ、わたし、貴方の彼女だった鏡花よ」
すると女は突然、前世で僕を裏切った女のひとり池袋鏡花だと名乗りだす。
「はぁあ、鏡花って、お前も転生してたのか?」
「ええ、光り輝く方に転生して頂いたの、私は選ばれた人間なのよ」
僕が転生したときにはそんな人と会わなかったがと思いつつ、良く僕に声を掛けることが出来たなと前世で高校時代の彼女だった女の図太さに呆れる。
「まあ、それなら話は早い。ハルンホン州領主としてカデンサの街へのテロ行為を許すわけにはいかない、主犯としてキョウカお前を処断する」
投降は期待していなかったが捕縛すればレーグランドとの交渉材料にはなるだろうと思っていた。
しかし、相手が僕を裏切ったキョウカなら別に捕縛する必要もなくなった。
容赦無く叩き潰すだけだ。
「タクミ、話を聞いて私、沢山反省したの貴方を失って初めて貴方がどれだけ大切な存在だったかって分かった。ご免なさい、許してください」
元キョウカだった白髪の女が頭を下げて謝罪する。あのプライドが高かった鏡花とは思えない行動に一瞬たじろいでしまうが僕がする事は変わらない。
「今更、謝られたところで過去は変わらない、それよりも問題は今だ、サクセン州のメイサの街でも同じ様な事をしただろう」
今回の件でテンプテーションの使い手がいるとわかった時点で調べ直させてみると、サクセン州で事件に関わった多くの者が魅了されていた痕跡があった。
手配書の作成に関わった者も一時的に魅了されていたようで、そのため芹奈と一緒に居た二人とは別の残りの男女ペアは全く違う面相で手配されていたようだ。
「あれ、バレちゃてたの、あの街は半壊程度だったから、今回は完全に壊滅させてあげようと思ったのよこの子の力も使ってね」
頭を下げて来た時は驚いたが、まるで悪びれることの無い態度にやはりキョウカだと実感する。
こいつにとっては自分以外のものはどうでもいいのだろう、だから街が壊滅して失われる命があろうと大したことないと思える。遊びで人の心を傷つけても何とも思わない、人でなしそんな言葉がピタリと当てはまる存在。
実際に人類種ではあるが人ではなくなったので尚更だ。
「それでどうする? 僕に謝罪する気持ちがあるなら大人しく投降してくれると助かるんだが」
期待していないはずだったが、本当に反省しているなら大人しく投降するかもしれない、そんな思いがどこかにあった言葉かもしれない。
「はぁ、もう良いわよ。折角私が頭を下げてまで謝ったのに許してくれないなんて、タクミにはガッカリだわ」
「そんな事だろうと思ったよ!」
多少の失望感はあったが今更だ、それよりも自らの手で断罪できるチャンスに自然と笑みが浮かぶ。
まず黒竜の魅了を解くために【
しかし、キョウカを守るように指示を出し黒竜が動き尻尾で牽制してきた。
慌てて回避行動を取り尻尾を躱す、閃光自体の目眩ましは効いているようで間合いを取ると闇雲に尻尾を振り回しているだけなのが見て取れた。
「いきなり仕掛けてくるなんて、タクミも変わったわね。前世では私に触れるのさえ緊張していたのにふふっ」
前世のことを引き合いに出し僕を揺さぶるつもりなのだろう。妖艶味の増した笑顔で僕に微笑みかけてくるがやはり魅了の力を使う気配はなかった。
「テンプテーションは使わないのか?」
「それこそ野暮じゃない。そんな簡単にタクミを手に入れてもつまんないでしょう。前世と同じ様に自分の力で攻略して貴方を手に入れてみせるわ」
クズにはクズなりの美学? いや醜学とでも言うべきか、共感したくない思いを向けられゾッとする。
どうやら、先程から感じていた悪寒はこの女の偏執的な妄執によるもののようだ。
「あいにくともう二度とお前と関わり合うつもりは無い、この場で断罪して終わりだ」
「あはっ、殺さないようにはしてあげるから、また私にボロボロになる姿を見せて!」
キョウカは黒竜に何か指示をする。
黒竜は言われるがまま火炎袋で熱を貯めると瘴気を纏わせた黒炎を吹きかけて来た。
「正気に戻すのは無理かな?」
黒竜は瘴気を纏うため悪竜と見られがちだが上位種になれば知性も高く意思の疎通は可能だ。
だから僕は先に住んでいた黒竜と不可侵契約を結び互いの住み分けを行った。
迫る黒炎を前にそんな事を思いながら、【
「あら、やるじゃない。それなら次はどうかしら」
キョウカは再び黒竜へと指示を出す。
黒竜は再び言われるがまま
複数の魔法陣が空間に現れると帯電した漆黒な球体が出現する。
以前に一度黒竜と対峙した時に見たやつと同じ、【
あれは自律攻撃型の飛翔物体がターゲットを自動で攻撃し続ける、かなり厄介な代物だ。
「余り手の内は見せたくなかったけど……まっいいか」
処断すれば同じかと考え直し、こちらも対抗手段をとる。
以前の黒竜とやり合った時、そこから僕も学んで研究して、たどり着いた
光り輝く菱形の立方体が同じ様に魔法陣から出現する。
漆黒の球体と輝く立方体とが互いを最優先の破壊対象と認識し、高速で空中戦闘を繰り広げ始める。
それは、さながら戦闘機同士のドッグファイトの様相を呈していた。
その間に僕は黒竜を正気に戻すための行動を開始する。
今迄のキョウカの指示から見て黒竜は自我を失った状態で操られていた。
しかし本来の魅了では自我は残るはずだ。
残った上で魅了した者の言うことを聞いてしまうから厄介なのだ。
つまり、そこから考えられるひとつとして、黒竜が魅了を回避するために自ら精神体を封じた可能性だ。
それによって表層意識だけが魅了され意志のない操り人形ならぬ操りドラゴンになってしまったのではないか?
希望的観測にも思えてしまうが、それなら自我を失っている説明もつくし、キョウカさえ始末すれば元に戻る可能性は高い。
それで駄目だった時はまたその時に考えよう。
今はシンプルにキョウカをぶちのめすだけだ。
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