第17話 執行の時


 大塚光輝は選んだ、自分がした事なのにタクミくんが同じことをしたとしたらを許せない事だと言った。


 どの道理で自分は良くて他人は許さないとなるのか、どこまで自分にだけ甘いのだろうか?


 制裁することに変わりはないが、自分のやったことを省みて少しでも反省すれば、せめて楽に殺してあげたのに。

 でも、クズは選んだ『許さない』という選択を。


「本当に良かった、やっぱり許せないよね。私も同じ気持ちだったわ」


「くそっ、当たり前だ!」


「ええ、タクミくんと私を苦しめた報い、まずは体でしっかり受けなさい」


 結論が出た今、身勝手に憤るクズへの制裁を開始する。無防備なままで危機感のないクズに対しレーヴァ・テインをかざす。


 まず両目を【蒸気化ヴェイパライズ】で潰しておく。これで目視して対象を能力で取り込むことが出来ないはずだ。


「グギャアァア、目がめがぁぁあ」


 蒸発する目を痛みにのたうち回るクズに近づき、思いっきり足で踏みつけ動きを止める。

 次に【熱杭ヒートステイク】でクズの両手を突刺し地面に縫い付ける。

 熱された杭が肉を焼き悪臭が漂いはじめる。

 こんなやつの臭いなど嗅ぎたくないので直ぐに離れると苦しむ姿をしばらく観察する。


「くそがぁぁあ、いでぇぇ。たすけろ、助けろよマリア、一緒に育った幼馴染だろうが」


「何で私を無理やり犯した男を助けるひつようがあるのよ?」


「お互いが好きなら和姦だろうが」


 あの時の出来事のどこに同意があったというのだろう、どうしたらここまで自分を正当化し周囲を歪める事が出来るのだろう。

 たまらず私は持ち得る憎悪と怒りを篭めて言い放つ。


「……ふざけるな! さっき、お前が言ったように私は必死に拒絶した、抵抗した。それを力で無理やり屈服させたのはお前だろうが、お前の近くにいたばっかりに私は大切なものを幾つも失ったんだ!」


 クズが言ったことをそのままブーメランで返してやる。さすがに自分の言った言葉は直ぐに改竄されないようで悔しそうに唇を噛む。


「……何でだよ、こんなにお前のことが好きなのに、何で答えてくれねぇんだよ。イケてる格好だってスポーツだって勉強だって女の扱い方だって全部お前に為に磨いたのによぉ、全部無駄だったのかよぉ」


「何が私の為だ、それなら、一度でも私の願いを聞き入れたたことがあるのか? 私の意見に耳を傾けたことがあるのか?」


「そんなの聞かれなくても分かるだろう、俺もお前の気持ちを察して、いつも尽くしてただろう」


 全部、自分の良いように勝手に解釈して、私を理想の幼馴染として都合良く作り上げてただけだ。

 そこに私の本当の気持ちなんて一度も考慮されたことなんてない、もし仮に多少でも私の気持ちを汲んでくれる奴だったら、ここまで嫌うこともなかった。


「なら、察してあげるわよ。信じてた人に裏切られたときの気持ちを」


 私は友人と思っていたコイツに裏切られた時のタクミくんの気持ちを考えてみる。

 何度思い返しても、胸を抉られるような痛みと怒りで思わずクズの体全身を【強制発火パイロキネシス】で炙る。

 直ぐに死ななないように【自己再生の炎】リジェネレイトフレイムを同時にかけておいてやる、ただ、炎の温度は沸騰した熱湯程度にはしといてあげた。


「うがぁぁあ、体がアツイ、痛いよぉぉ。お願いだ、いや、お願いします助けて……」


 クズの言葉を遮り私が話しかける。


「言わなくても分かるわよ、友人の彼女を寝取るようなヤツ最悪だよね、そんなヤツには……それも察してあげるわよ」


 ルックスに自信を持っていたコイツは髪の手入れも女子並に気を遣っていた。

 なのでコイツの髪を【強制発火パイロキネシス】チリチリに焼いてやった。


「頭が熱い、アツイ、あちぃんだよ、なんだよ、今度は何だ何をした?」


 こんなチリチリパーマでは自慢のルックスで言い寄ることも出来なくなるだろう。

 せっかくなので今の自分の姿を見せてやりたかったが目を潰したので見せれない、これは順番を間違えてしまった。


「髪を焼いてパーマにしてあげただけよ、クスッ、今のアンタには良く似合ってるわよ」


「マリアぁぉあ、お前は自分の彼氏が醜くなっても良いのかよ、熱いんだよ、痛いんだよ、分かれよ」


 また私の事を彼女なんてまた気持ち悪いことを言い始める。

 3歩歩けば忘れるを体現した上に、もともと支離滅裂だったものが更に酷くなってくる。


 でも私はそんなクズに対して優しく言葉を返してあげる。


「大丈夫よ、ちゃんと察してあげてるから」


 アイテムボックスからボールイーターという寄生虫が入った注射型カプセル弾を取り出すと離れた場所からクズに撃ち込む。

 アリアから貰ってたものがこんなところで役に立つとは思わなかった。本来は貞操の危機の時、相手に使用するものらしいが同じようなものたろう。


「あがっ、テメェ、今度は何をしやがった」


「だから、アンタの為なのよ。これ以上、アンタのせいで苦しむ女が出たら困るでしょう。ねえ美奈のこと覚えてる?」


 こいつは自分でも言っていたが私を本命と言いながら私以外の女とも遊びで付き合っていた。

 それ自体は彼女でもなんでもない、私からすればどうでも良かった。ただその相手に友人だった美奈という子がいた。

 クズは遊びでも美奈は本気だった。私は何度も忠告したが嫉妬からの言葉と勘違いされ聞き入れて貰えなかった。結果、彼女はクズの子供を妊娠し、それを理由に捨てられた。

 美奈は私の忠告を聞かなかったことを謝罪し泣きながら転校して行った。

 このクズに奪われた大切だったもののひとつだ。


「いちいち、遊びでちょっと付き合った女の事なんか覚えてる訳ねぇだろ。俺はお前一筋なんだよ、それより、熱くていてぇんだよ、いい加減分かってくれよ、それで俺を助けてくれよ」


 三つ子の魂百までという言葉があるが、コイツは正にこれだ、こんな目に合ってさえ変わらない、変わろうとしない、だから変えてやるしかない。


「今アンタに通称ボールイーターっていう寄生虫を打ち込んだわ、これで不能になればアンタもこれ以上罪を犯さない、アンタに良いようにされる女もいなくなる。正にアンタの為よ!」


 まあ死んでしまえば罪を犯すことも出来ないけどあえて今は言わない。


「なんだよ、どう言うことだよそれ?」


「ふふっ、名前の通りよ、その寄生虫は宿主のタマを食べるのよ。食べた後は成虫になるまで陰囊で少しずつ大きくなって最後は成人男性の拳サイズになると、食い破って出てくるらしいわ」


 私は男では無いので分からないがタマを喰われる時の痛みは尋常ではないらしい。

 また陰囊に寄生された後は分泌物で痒くてたまらなくなるそうだ、それこそ自分でタマを切り取りたくなる位に。


 折角なのでその事をクズにも教えてやった。


「嘘だろ、おい、やだ、やだよ、俺が悪かった、もう近づかない、タクミにも謝るから許してくれ、頼むから助けてくれ、もう痛いのはイヤなんだよ。これ以上俺の大事なものを奪わないでくれよぉ」


 クズは動かせない手と潰れた目とチリヂリの頭で必死に藻掻いて懇願してくる。

 男としての自尊心ゆえか自慢するほどでもないシンボルでも失われるのは嫌らしい。


「ねぇ、アンタ、さっき私とタクミくんに対して何て言ったかちゃんと覚えてる?」


「…………いや、あれは嘘だ。許すから、タクミもお前も許してやるから。だからお願いだ俺を助けてくれよぉ」


「許してやる……ふざけてるの? 私はちゃんと覚えてるよ、アンタは『絶対に許さない』って言ったんだよ」


 今まで自分の言葉と行動に責任を取ってこなかったクズに最後くらいは自分の言葉の重みを実感してもらおう。


「いやだ、たすけて、たしゅけてよ、いたいんだよぉ、これ以上痛いのイヤだよぉ、お願いだよぉマリちゃん、たじゅけてよぉぉお」


 精神的に限界が来たのか、幼児退行までし始める。だから私は子供を叱るように優しく言った。


「だめでちゅよ〜、コウちゃん。自分の言葉には責任を持たないとね!」


「いやだ、いやだ、いやだ、いやだぁぁぁぁあ」


 クズは駄々をこねる子供のように大きく喚くと最後に力を開放した。

 空間が歪み、中から黒竜も比較にならないほどの巨大な黒く四角い塊が姿を現した。


「あはっははぁ、アハッ、やっちゃえ、僕をイジメる奴らなんかみんな、こわしちゃえ」


 クズの言葉に反応して黒く四角い塊が変化する。

 それは前世で見た事のあるアニメだったかオモチャだったか忘れたけど四角張ったロボットの形になって這いつくばるクズを取り込むと私の前に立ちはだかった。


「……やっちゃったな〜」


 私はいつもツメが甘いと怒られる。今回も取り込まれることは最大限に警戒していたが、出てくる物に対してはゴーレムやゾンビのこともあり、たいして警戒していなかった。

 しかし、これで街に被害を出せばエルリックとアリアに何を言われるか分からない。

 私の脳裏には二人の笑いながら怒る顔が容易に想像できてしまった…………。


 


 


 

 


 


 


 


 

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