第16話 審判の時
ボロボロに地面に這いつくばる大塚光輝を冷めて目で見つめる。
「てめっ、卑怯なマネばっかりしやがって、普通ここまでするかよ、俺に恨みでもあんのかよ?」
確かに姿が変わってるから分からないとはいえ、よりにもよって私にそんな問いを投げかけるのか?
「…………そんなの、あるに決まってるでしょう」
怒りに任せてクズの両手を【
「うがっああぁ、あぢぃ、あぢぃよぉ」
手が燃えだし慌てて地面に擦りつけ何とか火を消していたがすでに両手は焼け爛れていた。
「本当に何なんだよお前はよ、せっかく助けてやるって言ってるのに俺が死んだらあの方に殺されるのはお前だぞ。俺はお前の為に言ってやってるのに、どうして分からないんだ?」
あの時と同じ様な事を偶然にも今の私に向って言ってきた。前世でも私が怒りで問い詰めた時、同じように『私のため』だと独善的な言葉を吐いてきた。それを散々に否定してやったらアイツは逆上して私を無理やり……。
「本当に変わらないねコウ」
余りに代わり映えのない自己中心的な態度の元幼馴染に呆れて溜息がこぼれる。
「はっ?………………もしかしてマリアか?」
私の呟きでもう一人の私に気付いた大塚光輝は急に勝ち誇ったような顔を見せる。
「ハッハハハッ。まさかお前もこっちに来てたんだな、姿が変わってるから分からなかったぜマリア」
「今の私はマリカマリウスよ」
「何だつれないな、まだ、浮気したこと拗ねてんのか? 言っただろうキョウカは遊びでお前の所に戻るつもりだったって。だいたいお前も悪いんだぜ何度も抱いてやったのにいつもマグロだし、でもこの世界に来て改めて実感したぜ本当に好きなのはお前だけだ、エニスティ様にも取りなしてやるからこの世界でやり直そうぜ」
「なっ………」
言葉にならない嫌悪感が体中を巡り、呆れを通り越して理解できないモノと遭遇した恐怖心が湧き上がる。
「どうだ嬉しいだろう。全く俺を嫉妬させたいからってあんなヘタレと付き合ってるふりをする必要ないんだぜ。安心しろマリアと分かったなら以前のようにたっぷり愛してやるよ」
「……黙れ。私はアンタなんかを愛したことなんて一度もない、何度言えば理解するの? いいかげんにして気持ち悪い」
「はぁ、いつまで拗らせてるんだ、人が優しくしたらつけあがりやがって。あんなヘタレのどこが良いんだよ、どう見ても俺の方が顔が良いし、幼馴染でずっと一緒だったんだぞ、どう考えても俺の方を好きになってるはずだろうが」
「幼馴染だろうが、アンタのことなんか生まれて一度も好きになったことなんてない、ずっと鬱陶しかった。うちの親まで懐柔して、それで私がどれだけ苦しんだかアンタには分からない、分かろうとしない、アンタはいつも自分のことしか考えない、だから私の不幸も分からない、アンタみたいな疫病神に纏わりつかれた私の気持ちが分かるはずない」
感情のままに叫んでしまう。
でもコイツに私の心の叫びは届かない。
それは前世で何度も経験した。
「フフハッハッハ、俺にそんな生意気な口を叩いていいと思ってるのか? なあ、アイツに知られたら不味いだろ俺とお前が何をしていたのかを?」
「……………はぁ」
ここに来て、そんな事を言いだすクズっぷりに何度目か分からない呆れ声がもれる。
そもそも自分で一度タクミくんに言っていることを忘れたのか、自らの墓穴を掘り続けるクズの姿は滑稽だった。
「言えばいいじゃない、そんなこととっくに知ってるから」
「はぁ、じゃあアイツ知っててお前を手元に置いてんのか? 他人の手垢まみれになった女に何の価値があるんだ」
「アンタだって、鏡花と好き勝手にしてたじゃないの」
「何言ってんだ? 本当に好きな女とただヤルだけの女が同じなわけ無いだろう。本当に好きな女は俺専用だ使用済みの中古なんて許せる訳無いだろう」
こいつの価値観など知ったことではないが、恋人にする女は処女じゃないと嫌らしい。こんな価値観持ってたなら前世でとっとと処女を捨てていればこいつに付きまとわれなくて済んだのだろうかとふと考える。
そして私のことを未だに自分の女だと思い執着するこの男を精神的に痛めつける事ができるかもしれない方法を思いつく。
「……じゃあ、コウ……姿が変わっても初めて抱いた私のことを好きなの?」
「さっきから、言ってるじゃないか。お前は俺の女だって!」
「そう、私はコウとは違って、この世界で完全に別の体で生まれ変わったの、心はマリアでも体はマリカマリウスなのそれでも本当に良いの?」
若干芝居がかった口調になったが自己陶酔し始めたクズには気づかれなかった。
「ああ、どんな姿でもお前はお前だろう、一番好きだった幼馴染のマリアだ!」
好きでもない男から言われてこんなに響かない言葉もない。
「ふふっ、ねえコウ。体も生まれ変わったって意味分かるかしら?」
下半身でしか考えない男が行くつく結論なんて予想通りだった。
「ハハッ、喜べ二度目の処女も俺が貰ってやるぜ」
自分に都合の悪いことは考えつかないようだ私がメビウスの……タクミくんの側にいたというのに。
明らかに期待した目で見つめる大塚光輝というクズに私は単純に事実を伝える。
「…………でも残念ね。私の処女はもうメビウスにタクミくんに捧げたの」
「はあぁ? 何いってんだお前は俺の女だろう」
「でも、この体はもうメビウス……タクミくんのものなの」
私はそう言うと初めてメビウスに抱かれたときの甘い本当の初体験を語って聞かせてやった。そしてタクミくんに抱かれる時どれだけ私が乱れるかも。
「……………………なんでだよ、なんで、なんで、何で俺を裏切ったあぁぁあ」
自分の事は棚に上げ、ここまで怒ることのできるこの男の精神構造が理解出来ない。
「それだけじゃないの、私とメビウス、タクミくんとはもう……」
私は左手の薬指にはめた指輪を見せつける。
それは星十字の証であり、側室を約束された婚約指輪も兼ねており、武装戦衣と神器を封印した特注のアーティファクトでもある。
あと、ついでにお腹も擦る。残念ながらそっちはまだだけど勝手に勘違いしてくれるだろう。
「嘘だろ? だって子供の頃約束したじゃないか、俺のお嫁さんになるって、温かい家庭を築くって。信じてたのにお前のこと本当に愛してたのに」
ここまで来ると恐怖しかない。
私には全く身に覚えがないからだ、せいぜい幼稚園の頃にごっこ遊びをした程度なのに。
きっと完全に記憶を捻じ曲げ自分に都合の良い部分だけを残しているのだろう。
「どうかしらコウ? それでも愛しているなら私と一緒にいる事が出来ると思うのだけど」
「だまれぇぇえ、このビッチが! この裏切り者め、絶対に復讐してやる。お前にも、タクミのクソ野郎にもだ、俺から大切なマリアを寝取るなんて絶対に許せねぇ」
今まで私に向けたことのない憎悪の感情を向けてくる。
「そう、貴方は仮にも愛してくれた私を許せないのね? もしそれが無理やりだったとしても?」
甘い夜を語っておいて無理やりだったと言うのは苦しいが、頭に血の登ったアイツの出す結論は変わらないだろう。それでも、あえて最後の審判は本人に委ねることにした。
「許せる訳が無いだろう。無理やりだろうが拒めよ、抵抗すれば良いだろう、そもそも何で俺以外の男に近づくんだよ危機感が足りねえんだよ。そんな他人に汚された女なんて必要ねえんだよ。友達になってやったのに裏切ったタクミの奴も、勿論マリア、お前も絶対に許さねぇ」
本人は理解しているのだろうか?
自分が言っていることの意味を?
悔しさを滲ませる大塚光輝の姿に私はエルリックもびっくりするだろう満面の笑顔で告げた。
「許せないということで良いのね!」
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