第10話 懐刀
カデンサの街に戻りと遅めの食事を取っているとエルリック率いる
すぐに僕の元にの来るようにと使いを送ろうとしたが、その必要はなくエルリックが気を利かせてこちらに出向いてくれていた。
「お久しぶりですメビウス様」
特徴的な赤褐色の髪に隻眼の男、エルリック・クライフスが笑みを浮かべていた。
「……ああ、久しぶりだな」
『……あのメビウス、エルリックが……』
『言うな、分かってる』
エルリックとは別に念話で話しかけてきたマリをいったん制する。
「私が何か?」
念話で会話したはずの内容を察したかのように、笑顔のまま、エルリックが僕に尋ねてきた。
「……その怒っているのか?」
「怒らないとお思いですか?」
質問を質問で返される、尚も表情は笑顔のままで……。
「……その悪かった」
笑顔に威圧され思わず謝ってしまう、まるで隠し事がバレた駄目亭主のようだ。
「何が悪かったのか理解しておられますか?」
「ああ、軽率だった」
エルリックが何に怒ってるのかは推測できた。
こいつもアリアなどと同様に良くも悪くも僕を第一に考える。
「まったく、貴方はいずれ公爵家を継ぎエンハイム最大の領主……行く行くは君主となられる御方。そのような立場の者が真っ先に前線に赴くなど有り得ません」
「いや、その……街が危険だと聞いていたし、調査だけでもしておこうと思って」
「それこそです。そのような斥候役などそこのエセメイドにでもやらせておけば良いのです」
「なっ、なっ、なんですって!」
エルリックの言葉にマリが噛みつく。
学園時代から2人は良くも悪くも喧嘩ばかりしていた主に僕が原因で。
「なぜ怒る? 本来主を守るべき近衛の
理詰めで問い質され、マリが反論出来ずに黙り込む。
エルリックの説教は延々と続き僕とマリは静かに黙って嵐が過ぎ去るのを待った。
「……よろしいですね。今後は軽率な行動は控えてください」
ようやく嵐が治まり、エルリックの笑顔が表情の無い能面に戻る。
これ程能面でいてくれることが安心する人物もいないだろう。
「分かった。そして改めて悪かった、心配させてしまって済まなかった」
素直に謝るとエルリックは能面のままそっぽを向いて言った。
「心配はしておりません、貴方の力は知っておりますから、ただ上に立つものとしての行動を諭したまでです」
「そうか、僕もエルリックの力は知っている。来て早々に悪いが力を貸してくれ」
僕は話を切り替え、得てきた情報をエルリックに伝えて意見を求めた。
「そうですか……天命クラスの魅力持ちが入り込み、黒竜まで操られている可能性がある。しかも裏にはレーグランドの影ですか」
エルリックは顎に指を当て考える仕草を取る。
「ふっふ、どうかしら私達だから得られてきた情報よ」
マリがよせば良いのに話を蒸し返す事を言う。
「全く貴方は……まあ、でも有力な情報です、行動は褒められたものではありませんが、結果は上々です流石メビウス様です」
「なんで私は褒めないのよ」
「アナタが居なくてもメビウス様はこの情報を持ち帰ってきたでしょう。しかし逆はどうですか?」
「うっ、それは……」
「いや、マリは十分に役立ってくれた。マリが居なければこの情報は得られなかったよ」
僕は思ったことを口にする。
実際マリの助言がなければレーグランドの影にはたどり着かなかったかもしれない。
「メビウス様はマリカマリウスに甘すぎます。それにまだ確定情報ではありませんので裏を取りに行きます」
「どういうことだ?」
エルリックの見解では意図を持ってこの街に侵攻するなら防衛側の裏をかく筈だと。
つまりスタンピードの兆候がある黒竜の巣側に目を向けさせて反対側、バルム山岳側から本命が攻撃を仕掛けてくるだろうと言うことだったので。
僕とマリでバルム山岳側を偵察しに行くことになった。
「あんた、さっき言ってたことと違うじゃない」
あんなに先行して偵察したことを怒られたマリは納得行かず、またエルリックに噛みつく。
しかし案の定と言うか簡単にエルリックに反論されてしまう。
「戦局は常に変わります臨機応変に対応できなければ負けますよ。適材適所という言葉もあります、下手を打って気付かれるのも得策ではありません。何より黒竜がいる可能性が高い以上対応出来るのはメビウス様とマリカマリウス、あなた位ですから」
「うぐっ、分かったわよ。確かに黒竜がいたら一般兵じゃ対処できないだろうし……このマリカマリウス様の力見せてあげるわよ」
「あの、マリ、あくまで偵察だからね」
偵察ついでに黒竜ごと潰しかねない勢いのマリを諌める。
「もう、面倒臭いわね」
「言いましたよね。ここで本命を潰してしまってはスタンピード側が拡散し逆に討伐しにくくなります」
「別に各個撃破だっていいじゃない」
「それでは取りこぼす恐れがあります。殲滅させるためにも包囲戦を取るべきです」
エルリックがマリに改めて意図を説明する。
「そして包囲戦をするなら、集まってる方がやりやすいと言うことだろう。どちらにしろ奴らを潰すことには変わりない、その時は期待してるよマリ」
「……分かったわよ。その時は思う存分やってあげるから楽しみにしてなさいね」
「ああ、それで、頼む」
何とかマリを納得させ山岳方面に飛翔するために手を取る。
「それではメビウス様お気をつけて」
エルリックの見送りの言葉に頷くとマリと一緒にバルム山岳の上空に飛んだ。
相手に悟られないように高高度から偵察機のように地上を映像として記録して行く。
僕が飛翔を担当してマリが地上を魔法で立体視すると、それを映像に変換して記録用オーブに録画して行く。
「見つけた、悔しいけどエルリックの見立てが当たったわね」
上空を何度か旋回しているとマリが敵影を見つけたので重点的にその周辺を撮影する。
「……もう十分よ、一度戻りましょう」
マリから帰還の声が掛かる。
心なしか落ち込んで声が震えているように感じた。
館に戻り状況をエルリックに伝える。
記録した映像を再生するための魔道具は既に準備されており記録用オーブをセットして魔道具がオーブから映像を取り込むのを待つ。
「あの、タクミく……じゃなくてメビウス。映像を見ても驚かないでね」
名前まで間違えそうになり意味深な発言をするマリを首を傾げて眺める。
しかしマリが言った意味を映像を見て理解した。
地上を写した映像には設営されたキャンプと少し離れたところに黒竜が確認された。
キャンブには4人しかおらず他に部隊展開はない様子だった。
「なんで、コイツがいるんだ?」
しかし映像に映し出された4人のうちのひとりには見覚えが合った。
忘れもしない前世で高校時代に友人だった
隣のマリもギュッと僕の腕を強く掴み震えていた。
安心させるように抱き締めて落ち着かせる。
あいつは前世の僕を裏切ったクズだ。
こうなると奴らが行動を起こすのが逆に楽しみになってきた。
今回の件も含めれば大義名分はこちらにあり、遠慮なく表立って制裁出来るのだから。
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