第9話 見えてきた真相

 

 カデンサの街に到着して3日目。昨日の夜はマリにねだられて頑張った。

 久しぶりということもあり二人共燃え上がって少し寝不足気味だ。

 マリはまだ気持ちよさそうに寝ている。


 ハルンホルンの時はアリアが身の回りの世話をすべてしてくれるのだが、ここではある程度自分でしなければならない。

 マリも見た目はメイド服姿だがそれはアリアが独断で決めた星十字の隊服だからだ。

 そのため格好だけでメイド仕事は出来ない。


 今日は黒竜の巣の周辺を範囲を広げて探索する予定だ。

 魔物の群れを潰しながら消えた黒竜の痕跡を探して行くローラー作戦だが手掛かりが無い以上は仕方がない。


 しばらくして起きてきたマリと食事を一緒に済ませると早々に黒竜の巣周辺に飛ぶ、周囲を感知魔法で探り気配の多い方角に向けて移動を開始する。


 巣の周囲は森林地帯のため上空からの視認が難しく感知で反応した周辺まで飛ぶと後は徒歩で接近を試みる。


「あれってゴブリンよね」


 近くまで来たことで視認できるようになり、緑色した小柄な亜人が視界に写った。

 魔法で気配を完全に殺して近づき状況観察を続ける。音

 を立てないため会話は念話に切り替えた。


『かなりの数が居るな』


『少なくとも30体近くはいるわね。近くに巣があるのかしら?』


『嫌、この辺はまだ黒竜の縄張りで、竜種が縄張りを荒らされることを許すはずない』


『自然発生的に増えたのではないとしたら……外から連れてきたということかしら?』


 確証はないがその可能性も出てきた。


『操るにしてもテイマーでは無理だな』


『ええ、知能が低く本能的な行動しかとらないとはいえ魔獣ではありませんから』


 マリの言うとおりゴブリンは亜人種だ。

 コミュニケーションが取れず問答無用で襲ってくるため魔獣と同等の扱いだが、厳密には違うのでテイム出来ないらしい。


『それにしてもあの数を従わせるなんて、いったいどんな手を使ったのかしら?』


 マリの疑問は僕も考えていたがゴブリンの集団を観察しているうちに答えは出た。


『そういうことか、理由が分かったぞマリ。あの集団に一体だけチーフがいる』


『えっと、あの少しデカい奴?』


『そうだ、あれをアナライズしてみろ』


『えっと、これって…………魅力チャームに掛かってるわね』


 ゴブリンは強い個体に帰属し従う習性があるため集団のボスさえ支配下に置けば、その下はどうにでもなるという寸法だ。


『頭だけ潰す?』


『いや、どちらにせよ危険だからここで全員潰す』


『なら、爆炎で派手にぶっ飛ばしましょう?』


 マリらしい提案に僕は首を振り却下する。

 それを見たマリが少し残念そうな顔をする。

 

『他の群れがあれば気づかれるかもしれない、僕が束縛バインドで動けなくするから、なるべく静かに片付けてくれ』


『了解。任せておいて!』


 マリの承諾を確認すると感知魔法でゴブリン全員を知覚する。

 合わせて知覚している全てに束縛バインドの魔法を掛けた。


『全て捕らえた!』


『ふふっ、流石ね、なら私も……光矢レイアロー


 マリも僕が束縛し捕らえたゴブリン全員の眉間を光の矢で撃ち抜いた。


「ありがとうマリ、助かったよ」


「これ位、どうってことないわよ。それよりもっと派手に倒したかったわ」

 

 あれだけのゴブリンを瞬殺したのにも関わらず物足りない様子のマリに思わず苦笑いしてしまう。




 その後、数か所魔物の群れを潰したが全部同じように群れのボスが魅力されている状態だった。



「これってテンプテーション持ちが入り込んでるわよね」


「ああ、かなり強力なやつだろう、魔眼持ちか吸血種ヴァンパイアかもしれない」


 黒竜も魅力されている可能性を考えると並のレベルでの魅力は通用しないはずだ。


「魔眼持ちなら天命レベルよね、吸血種の方が可能性は高いんじゃないかしら」


 この世界での吸血種はアンデッドではない。亜人種でレーグランド神聖国という自分たち種族が統治する国まで建国している。

 ただエンハイムとは折り合いが悪く何度か国境付近で小競り合いを繰り返す間柄だった。


「……と考えると裏でレーグランドが動いている可能性が高くなってきたな」

 

「そうね、定期的な嫌がらせにしても悪趣味ね、街をひとつ潰そうとするなんて」


「ああ、仮にそうなら僕の治める街を狙ったこと、絶対に後悔させてやる!」


 こんな一般の民を狙うやり方は汚くて許せない。ましてや明確な戦争状態ではないのに関わらずだ。


「とりあえず状況を整理する上でも一度街に戻りましょう」


「そうだな、日程からして、そろそろエルリックが到着してもおかしく無いだろう」


 エルリックなら僕達が見落としている穴を見つけられるかもしれない。

 そう考えた僕は即座にマリを抱き締めるとカデンサの自室へと転移した。


「あの、その、いきなり抱き締めるからびっくりしたじゃない」


 顔を真っ赤にして抗議するマリ。

 何度も肌を合わせあってる仲なのに未だにこう言う初心な所はマリの愛おしい一面だと思う。


 



 


 

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