第8話 マリカマリウス


 カデンサに飛んだ初日、街の守衛に改めて調べさせたところ、やはり例の冒険者の目撃情報は得られなかった。

 ただ、見かけない流れの冒険者が4人、5日ほど前に黒竜の巣に方へ向かったことが分かった。


 2日目、滞在先に使っているグラシャス家の別邸にマリが到着した。


 内包した魔力の濃密さを体現した青い髪、幼い顔立ちの中にも気の強さを反映した力強い眼差しを見せる。

 小柄ながらメリハリのついたボディはメイド服からでも確認できるほどたった。

 そんな彼女が僕に向かって一直線に向かって来る。


「待たせたわねメビウス、私が来たからにはもう安心よ!」


 来訪するなり僕に飛び付きながら自信たっぷりに語るマリ。

 学園時代の彼女をしっている人間がいれば目を丸くする事だろう。

 学園では魔法において僕がチート覚醒するまで常にトップの成績を修めていた才媛で、僕が覚醒した後もしょっちゅう勝負を挑まれては返り討ちにしていたら突然告白された。

 最初は何かの冗談かと思ったが余りにも真剣なまなざしだったのでアリアに相談したところ公爵家の嫡子たるもの側室や妾の数など気にしてはいけませんと逆に説教されたのは今や良い思い出だ。


「ちょうど良かったマリ、これから黒竜の巣に向かうから付いて来てくれ」


「えー、あそこに行くの? 汚いし、臭いし私余り好きじゃないんだけど……でもメビウスがどうしてもって言うなら付いて行くわよ」


 マリは口では不平を言っているが何だかんだでいつも付き合ってくれる面倒見の良いタイプだ。


「ああ、頼むマリが必要だ」


「もう、しょうがないんだから。本当、メビウスは私がいないとダメね」


 そして僕がお願いすれば何だかんだでお願いを聞いてくれる。

 自分で言うのも何だがマリもアリアも僕に甘すぎだと思う。



 マリと一緒に出発の準備を済ませると、そのまま二人で黒竜の巣に向かう。

 結界により転移は出来ないので飛翔の魔法を使い目的地に向かう。



 しかし赴いた黒竜の巣に主は居なかった。


「どういうことだ?」


「争った形跡があるわね」


 考えられるのは流れの冒険者がここを訪れた可能性だが、冒険者風情にあの黒竜が敗れるとは思えない。


「ただ、魔力の痕跡は見られないな」


「ええ、黒竜と魔法無しで戦うなんてあり得ないわよ、何か別の力を利用したのかも」


 別の力というとギフトなんかがあるが竜種と渡り合える程となる限られる。


「天命レベルのギフトホルダーが来ていたと?」


 上位竜種の黒竜と渡り合うには最高レベルのギフト保持者しか考えられなかった。


天命騎士デスティニナイツは管理されてるもの、それこそあり得ないわ」


 マリの意見も最もで、ギフトにおける最高レベルの天命を与えられた者はエンハイムでは登録、管理され天命騎士デスティニナイツとして国の機関に所属するのが義務付けられているからだ。

 それを免れるのは上位貴族位だか天命レベルのギフトを持った者の多くは魔法の才能が伴わない。

 それは魔法至上主義のエンハイムにおいて貴族とはいえ冷遇されてしまう原因に繋がる。

 結果、貴族といえど天命騎士デスティニナイツに所属するのが当たり前の流れになっていた。


「しかし、それ以外何が考えられる?」


「…………同じ天命騎士ディスティニナイツでも他国なら」


「いや、それこそ考えられないだろう、バレれば国家間での問題どころじゃないぞ」


「じゃあバレなければ良いのよね、いまこうやってコソコソやっている状況って正にそれじゃないかしら」

 

 言われてみればそうだが、そんなリスクをとってまでしようとしていることは一体何なのか? 

 これは唯のスタンピードでは済まされない、厄介な問題になりそうな予感を感じていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る