第11話 ヒロインになれなかった女

※※ 注意 ※※

人によっては不快感を強く感じる表現が多々ある、いわゆる胸糞回です。苦手な方は◇以降は、回避推奨します。


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 まさか、この世界であの男を見るなんて思わなかった。

 思い出したくない記憶が蘇り体が震えてしまい、思わずタクミくんに縋り付いてしまう。


 やっとタクミくんと……この世界で結ばれたのに。

 きっと、またあの男は私の幸せを壊しに来たのだ、前世の時のように、いつも私に付き纏い私の大切なものを壊してきた男。


 私にとって最大の疫病神。


 顔を見ただけで思い返したくない記憶が何度も何度も蘇ってくる、それこそ寝てる間も悪夢として。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 あの男とは俗に言う幼馴染の間柄だった。

 家が近所で両親の仲が良かった為、自然と身近にいる存在になった。

 小さな時はまだ良かった何も知らずにただ遊ぶだけの友達。

 それが成長するにつれて変わってきた異性として意識されるようになり、距離感も変わってきた。

 でも私はあの男のことを異性として意識したことなんて無かった。

 あの男が異常な執着心を見せるようになったのは中学に入ってから、私に近づこうとする男子をあからさまに牽制するようになり、常に私を側に置こうとした。

 私はそれが嫌であの男とは逆の立ち位置に立とうとした。


 あの男は見た目も良くスポーツも出来たので、私はわざと野暮ったい眼鏡をかけ地味な格好をした。

 部活も文化部に入り、放課後も極力あの男と会う時間を減らすように努めた。

 それなのにあの男は私の努力を無視するかのように私に話し掛け、私をまるで彼女のように扱った。 

 当然周りは勘違いし、もともと人気のあったあの男が好きな人達からは嫉妬された。

 でも付き合っていることを否定すると、尽くしてくれてるのに彼が可哀想だともっと責められた。

 私の友達だった子達もすっかりあの男に丸め込まれ、いつの間にか彼の味方になっていた。

 最悪なことに『応援してるから』と気持ち悪いことを言われ、私があの男のことを好きなのだと思われてしまっていた。


 何を言っても言葉が伝わらない周りに私は諦め何も考えないようにした。

 高校に入れば離れられるその思いで堪え忍んだ。

 あの男にもわざと違う志望校を伝えた。

 でも私の目論見は見事に外れた、母親があの男に志望校を教えていた。


 母親にはちゃんと伝えてた筈なのにあの男のことは好きじゃないと、それにも関わらずあの男のことを気にいっていた母親が勝手に気を利かせて伝えていたのだ。


 私はまたあの男に絡まれる憂鬱な高校生活に嫌気がさし登校初日に学校をサボった。

 本当に何となく学校に行きたくない気分になったので学校には行かずに好きだったアーティストの曲を聴きながら桜並木の公園を散歩した。


 そこで私は出会ってしまった、私と同じ全てに諦めたような目をしたまま、ただ、ぼうっと風に舞い散る桜を眺める男子と……きっとタクミくんは覚えていないだろうけど、それが私とタクミくんとの最初の出会いだった。


 高校1年、多分私が一番幸せだった時期。桜並木で出会ったタクミくんと同じクラスだと後で分かり、あの男とは違うクラスになった最初で最後の幸運を使い果たした年……今振り返れば、私の後悔が詰まった一年間。

 この時、私はもっとタクミくんと話をしてもっと仲良くなって、私が隣に居てあげれたなら良かった。

 そうすればタクミくんがあんな悲しい思いをせずに済んだのに。


 そう、残念ながら、この一年間で私とタクミくんとの間にあまり進展は見られなかった。

 他の人に比べれば話しをしてくれるようになって、少しづつ笑う顔をみせてくれるようになり、たまに最寄り駅まで一緒に帰るくらいだった。それでもその一年間は幸せでもあった。

 それが地獄に変わるのはあの女とあの男が私とタクミくんと同じクラスになった2年生の時からだ。


 あの女は周りから注目を集めるクラスどころが学年カーストのトップに君臨する存在だった。

 あの男も同じく周りからはイケメンと持て囃され、サッカー部でも活躍していたので相変わらず周りから人気がありクラスの中心的な存在になっていった。


 私とタクミくんはというと付かず離れずの微妙な関係が続いていた。

 そんな中であの男は私を通じてタクミくんと友達になって行った。

 ただあの男は今までとは違い、直接的にタクミくんを牽制することはせず、『彼のことが好きなら応援する』とまで言われた。

 あの時の間抜けな私は彼の執着心が薄れたのだと私自身の願望を信じた。


 あの男は私の知らないところでタクミくんとあの女を合わせていたのに……。

 いつの間にかあの女はタクミくんと話すようになり、少しづつだが話をするようになっていた。

 焦りを感じた私も今までよりも少しだけ積極的にタクミくんと話すようになり、一緒にお昼を食べるくらいには打ち解け始めていた。


 その時、私は完全に油断していたのだろうあの男の存在を忘れていた。

 応援していると言う言葉を信じていた。

 少し考えれば分かったのに、あの男を信用なんかしてはいけなかったことに。


 あの男はよりにもよってタクミくんに『私のことを好きだから応援してほしい』と中学の時と同じ様な手口で頼み込んでいたのだ。


 それを知った私は生まれて初めて激昂してあの男を憎んだ。

 彼の家に怒鳴り込み、ありったけの怒りと今迄の不満をぶつけて罵った。それがどんなに迂闊だったのか分からぬままに……。





 そして、その日、逆上したあの男に私は無理やり犯された。


 勿論、親にも訴えたが若気の至りで彼の人生を潰すわけにはいかないと、よりにもよってあの男の味方をした挙げ句、流石に子供は不味いからと避妊具まで渡された。


 私は周りに期待するのを諦め、また考えることを止めた。

 それが今度は好きだった彼を……タクミくんを追い詰めることになるなんて知らずに。


 私が自分を見失っている間、あの女は着実にタクミくんとの仲を深めていった。

 タクミくんにもあの男と私が付き合っていると思われ、それが私をさらなるどん底へと叩き落とした。


 あの男は最初に私を犯したときに写真をとっており、それをネタに再度関係を迫った。

 考えることを止めていた私は言われるままに関係を持ち、あの男の性の捌け口にされ続けた。


 あの女とタクミくんもいつの間にか付き合うようになっていた。

 あの女に優しくするタクミくんを見るたびに、考えることを止めて殺していたはずの感情が疼くと自分の穢らわしいさが思い起こされトイレで何度も吐いていた。

 苦しさから逃れたくて、更に何も考えないようにし、タクミくんすら見てみないふりをした。 


 しかし、私が見てみないふりをしている内にタクミくんとあの女の関係が次第におかしくなり始めていた。

 あの女がタクミくんにつれなくするようになり、あの男と一緒に居る事が多くなった。


 あの男も私で性処理することが減っていた。


 そこが最後のチャンスだったのに私は変わらず思考を止めたままでいた。

 あの時のタクミくんをちゃんと見ていれば結果は変わったかもしれないのに。


 そうして私が傍観者でいる内にタクミくんとあの女は別れてあの男と付き合うようになっていた。


 あの男がようやく離れ、止まった思考が少しづつ動き出し、私はようやく開放されたと思った。

 これでタクミくんの元に行けると甘い幻想に浸った。


 でも、久しぶりに目を見て話したタクミくんは私なんかを見ていなかった。

 むしろ穢らわしい目で私を見ていた。


 私は冷めた感情のまま、久しぶりにあの男を部屋に呼んだ。

 あの男は勘違いして関係を持とうとしたが私が準備していた包丁を持って威嚇するとビビって大人しくなった。


 何ではじめからこうしなかったのかと後悔した。


 私は脅してあの男がタクミくんにした事を洗いざらい白状させた。


 友達のフリをして近づきタクミくんが私に好意を抱きつつあることを知り、幼馴染で片思いをアピールして私を諦めさせたこと。


 私から引き離すためにあの女をタクミくんに近づけたこと。

 それが切っ掛けでタクミくんがあの女と付き合うようになったこと。


 私がタクミくんに好意を抱いたことがやはり許せなくて復讐するためにあの女と関係を持ったこと。


 聞いてもないのに、あの女は唯の遊びでタクミくんと付き合っていたこと、だから自分に鞍替えしたことを自慢された。

 バレた時に私との関係を問い質され、嫌がらせでただのセフレと答えたこと、その際にあの時の写真を見せ、タクミくんを嘲笑ったこと。


 そしてあの男は悪びれることなく、あの女とは遊びだと、直ぐに私のもとに戻るつもりだと言った。

 だからそんなに怒らないでくれと埋め合わせは必ずするからとヘラヘラと笑って言った。


 私は自らの罪を自覚した。

 自分の浅はかさを呪った。


 一年間だけだったけどタクミくんだけを見つめることが出来た平穏だった日々を思い出し、忘れていた涙を流した。





 次の日、私は自ら命を断った。


 タクミくんの優しを踏みにじったあの女……池袋鏡花と、私を貶めたあの男……大塚光輝を呪いながら。


『ゴメンね私が好きになったばかりに……』


 私のせいで不幸にしてしまったタクミくんに贖罪するために…………。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

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