第5話 勇者セリナの伝説
私はどこで道を間違えたのか、そんなものは最初から分かっていた。
虐められていた私を庇い幼馴染のタッくんが代わりに虐められるようになった時、本当は二人で立ち向かうべきだった。
立ち向かうのが無理なら二人で逃げるべきだったんだ。
でも、私はひとりで逃げた。
周りの声に流されてタッくんの為だからとタッくんを周りと一緒にイジメた。
そんな子供でも分かる矛盾した行動の何処に相手を思いやる気持ちなどあるのだろうか?
だから、あんな男の甘言に乗ってタッくんを虐め、あまつさえ恋人関係になるなんてタッくんが怒るのも無理はないのに。
でも、あの時の愚かな私はまるでタッくんが悪者のように責立て、実際に悪者にしてしまったのだ。
小さな頃から私を守ってきてくれた大切な幼馴染を私は自らの手で突き放してしまった。
その後の私は酷いものだった幼馴染を捨ててまで取ったあの男は私の体にしか興味がなかったらしく飽きたところで捨てられた。
独りに戻ってようやくタッくんの大切さに気付いた私はタッくんに謝ろうとしたがもう遅かった。
タッくんは既に引っ越ししていて会うことが出来なくなっていたからだ。
タッくんと一緒に勉強することもなくなっていた私の学力は気が付けばすっかり落ちこんでいて底辺の高校に進むのがやっとだった。
進学先でもタッくんという支えを失った私は優しくされると簡単に騙された。
そんな私は周りから、体良くヤレる女として見られていた。
そんな中にもタッくん程でないけど本当に私に優しくしてくれる男子と出会った。
彼は私の過去を聞いた上で許してくれて、こんな私と一緒に歩いていこうとまで言ってくれたのだ。
私達は二人で励まし合いながら頑張って何とかそれなりの大学に進学することが出来た。
その頃にはもうタッくんの事は忘れて彼の事が本当に好きになっていた。
でも愚かな私はまた道を踏み外してしまう、努力して勝ち取った大学生活に浮かれてしまい、自分が楽しむ方を優先してしまった。
入ったサークルでチヤホヤされた事により調子にのった私はサークルの先輩と関係を持ってしまったのだ。
本当に好きなのは彼と言い訳しながら、色々と楽しいことを教えてくれる先輩との関係にハマっていきズルズルと引き返せなくなっていた。
そんな関係がバレずに続くはずもなく、先輩との浮気現場を見られた私は優しかった彼の言葉とは思えないほどの罵声を受け別れることになった。
彼と別れてしばらくは先輩との関係は続いたが新入生が入るとあっさりと捨てられた。
大学ではすっかり軽い女と噂が広がり、私に声を掛けてくる男はただヤリたいだけの男ばかりになり私も気を紛らわすためにその時の気分で関係をもったため噂に拍車をかけた。
そんな常に空虚だった私を満たしてくれるのはやっぱりタッくんしかいなかった。
運命なのか街で見かけたときに直ぐに気がついた。
中学の時より雰囲気は大分変わっていたが私にはひと目で分かったのだ。
その日から私はタッくんを探すために街に出るようになった。
大学もそっちのけで何日もタッくんを探して街をくまなく歩く日々が続いた。
しかしあの日以来タッくんを見かけることはなく、次第に自分が見たのはタッくんに会いたい思いが見せた幻だったのかと諦めかけた。
そんな諦めかけた次の日、酷い雨の中で私はついにタッくんを見つけたのだ。
傘越しでも見間違えようのない後ろ姿を見た瞬間私は雨の中人混みを割って追いかけ始めた。
謝って許してもらう為に必死で…………。
しかし追いかけても、追いかけても、どんどん遠ざかって行く背中にこれを逃したらもう二度と会えないのではと焦りを感じ始めていた。
私はもうタッくんに追いつくこと以外考えられず無心で後を追いかけ続けた結果。
私は信号を無視してしまっていて道路を横断していたトラックに跳ねられてしまった。
そうして愚かでつまんない私の人生は幕を閉じたと思われた…………。
しかし、私はこの世界に勇者として選ばれて転移していた。
ただ、この世界に来る前に光り輝く人に会っていて罪を償えとだけ言われたことだけは何となく覚えていた。
だからだろうか私は前の世界での事を反省し今度こそ皆の役に立つために生きていこうと誓った。
それからは、みんなのために頑張り、勇者の力も駆使して困ってる人達の力になれるよう働いた。
そんな中で私は高位冒険者の2人、戦士のベインと魔道士のロブと出会った。
二人は私の皆の役に立ちたいと言う思いに共感してくれると、旅についてきてくれた。
二人はとても有能で的確に悪人の所在地や拠点を探しだした。
それを私の力で制圧し悪人共を成敗して行く旅は私に充足感をもたらした。
困った点と言えばベインは酒癖が悪く酔うと強引に私を抱いてくるところと、ロブは幻惑魔法の実験に私を使うところくらいだった。
そんな彼らが次の目標に選んだのがハルンホルン州の領主様で領民から税を絞り上げ、自らの懐を潤す事しか考えていない悪徳領主との事だった。
作戦は2人が考えてあるとのことで私は領主に謁見して支援を願い出るだけで良いと言われた。
でも、まさかそこで私は運命の再会を果たすとは思っていなかった。悪徳領主と言われた人物は髪の色が違ったけどタッくんと瓜二つでどう見ても同一人物だったのだ。
ただ側には嫌な感じのメイドが仕えており、話の流れからそのメイドと戦うことになった。
最初はただのメイド相手に力を振るうのは気が引けたけど、戦う前に話しかけてきた領主様がやっぱりタッくんだと言うことが分かり、私はタッくんに纏わりつく嫌な女を排除する好機だと考えてしまった。
しかしあの女は私なんかが及びもつかない程強くあっという間に腕を切断され無力化されてしまう。
見かねたベインとロブが支援に入り、タッくんもこれを認めてくれた。
きっと心のなかでは私を応援してくれているのだとその時は喜んだ。
私はロブの回復を受けるとタッくんの期待に答えるためにありったけの力を聖剣に溜めるとそれをあの嫌な女に向かって放った。
いくらあの女が強かろうが聖剣のフルパワーには敵わないだろうと考えていた。
私を虐めた罰として、苦しまないように一瞬で終わらせてやることを感謝してほしいとさえ思った。
そして放たれた光の波動があの女を飲み込もうとする瞬間勝ったことを確信し私は微笑んでいた。
タッくんは優しいからあんな嫌な女でも居なくなればきっと悲しむだろうから、私が慰めてあげないといけないなとか、ベインとロブだって私が説得すればタッくんの味方になってくれるはずだ、なんて浅はかなことを考えながら。
しかし、そんなささやかな私の希望は簡単に打ち壊される。
光の波動が爆散し煙があたりを包む合間に私を今迄助けてくれてきたベインとロブの首が切り落とされ転がっていた。
女によると二人は犯罪者として手配されていたらしい、否定したかったが私も薄々気付いていた事だった。
私はこの世界でも男達に騙されていたようだ。
それからは一方的に痛めつけられた。
肉体的にもだが精神的に淡々と私がタッくんを裏切った事実を突き付け私の愚かさを露呈させられた。
そして何より愚かだったのはそれをあの嫌な女に指摘されなければ私自身の愚かさに気付けなかったことだった。
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