第3話 旧・幼馴染 vs 真・幼馴染


 地下の訓練場に場所を移す。

 ここは僕の結界で守られているので戦略級の攻撃魔法でも耐えられる。



 芹奈は聖剣を手に取ると構える。

 防具は軽装備ながらそれなりの質の物を身に着けていた。アリアはメイド服のまま僕があげた愛刀を携え対面した。


「あの、その服で戦われるんですか?」


 芹奈が心配してアリアに声をかける。


「ご心配無用です。アナタごときに戦衣は不要ですから」


 柔らかな笑みを崩さないままに答えるアリア。

 舐められたと感じ少しムッとする芹奈。


「本当に良いんですね。この剣凄いですから。怪我しても恨まないで下さいね」


 聖剣が芹奈の意思に反応するように光りだす。


「聖剣ごときなど! メヴィ様から頂いたこの桜花残焦に比べれば鈍らも良い所です」


「後で泣いて謝ってもしらないから!」


「笑止! 私に斬れぬ物など御座いません。自らの罪を身を持って味わいなさい」


 二人が武器を構えると、僕が発した開始の合図とともに動いた。


 芹奈は聖剣から光波を放ちアリアを近づけさせないようにする。

 一発一発は威力が大きく障壁にぶつかると大きな衝撃と音をたてるが、剣の扱いが素人のため剣先で軌道が読めてしまう。

 まして『剣神』の称号をもつアリアに当てるなど天地がひっくり返ってもあり得ないだろう。

 実際アリアは光波を苦もなく躱すと、簡単に間合いへ入り込むとまず芹奈の左腕を切り落とした。

 幸いといっていいのか切断面は熱を持った刀身により焼き焦がされたおかげで、出血は抑えられていた。


「うぎゃぁぁ」


 芹奈が見苦しい悲鳴を上げうずくまる。


 アリアは切り捨てた腕をに拾うと芹奈に近づき、焼き爛れた切り口に擦り付けるように繋ぎ合わせる。

 痛みから芹奈が再び声を上げるのを無視して切断箇所に霊薬エリクサーを一滴垂らす。

 無造作に繋がれた腕が霊薬の効果でみるみる繋がるが腕は有り得ない方向に向いていた。


「なんで。こんな酷いことするの?」


 芹奈は泣きながらアリアに訴えかける。


「愚鈍な方なのですね。理由が分からないなんて」


 アリアは冷たい眼差しを向けたまま今度は右腕を切り飛ばした。


「あぎゃぁぁあ」


 汚い悲鳴をあげ芹奈がのたうち回る。

 見ていられなくなった連れ添いの二人がアリアと芹奈の間に割って入る。


「約束を違えるおつもりですか?」


「もう、勝負はついているだろう、これ以上は無用だ」


 連れの魔道士が芹奈の腕を魔法で治癒している間に戦士風の男が壁になるようにして叫ぶ。


「それを決めるのは私達ではありません」


 アリアはそう言うと僕の方に目を向ける。

 心なしか口角が上がっているように感じられた。

 僕は頷くとハンデを付けて試合の継続を告げた。


「勇者側は3人で構わぬ。アリアに一太刀くらいあびせてみせろ!」


「くそっ、馬鹿にしやがって、このままメイド風情に良いようにされてたまるかよ」


 芹奈よりは実戦なれした戦士の男がアリアに斬りかかる。

 しかし踏み込みは浅く明らかに時間稼ぎの牽制なのが見え見えで後続の芹奈の回復と魔法の援護を待っている様子だった。


 アリアもそれを分かっていてわざと回復させるまで待っているようで、牽制してくる戦士の攻撃を軽く躱しながら致命傷にならない程度に軽いダメージを与えて削っていく。

 その間に回復がようやく終わり再び聖剣を持って芹奈が立ち上がる。

 魔道士の男が回復から補助魔法に切り替え芹奈にバフを掛ける。


「もう、許さない。私を傷つける奴なんて皆死んじゃえば良いんだ」


 芹奈は殺意を剥き出しに聖剣に力を溜めていく。

 先程まで放っていた光波の輝きとは比較にならないほどの眩しい光を剣が放ち始める。


「ベイン、時間を稼いでくれてありがとう。準備は出来たよ、そこをどいて!」


「フフっ、待ってたぜ、この生意気なメイドを吹き飛ばしてやれ」


 戦士の男は芹奈の攻撃に巻き込まれないように後ろへと下がる。

 アリアならそなまま追撃して首を跳ねることも可能だがあえてアリアは動かないようだ。


「タッくんに纏わりつく悪い虫なんて消えちゃえぇぇえ!」


 芹奈の聖剣に溜め込まれた光が大きな波動となってアリサに放たれる。

 しかしアリアはまるで動じることなく微動だにしない。

 光の波動がアリアを飲み込もうとするする瞬間、爆音をたてて光が消え失せ、爆煙が広がる。


「えっ??」


 芹奈が呟き、煙が晴れたときには戦士の男と魔道士の男二人は首と胴が切り離されていた。

 芹奈は分からなかったようだがアリアは光の波動を瞬時に切り裂くと生じた爆煙に紛れ戦士と魔道士の首を跳ねたのだ。


「なんで!?」


 もう一度呟いたときには聖剣は切り折られていた。


「こいつ等は高位冒険者の立場を利用したクズ共です他の州より手配書が発行されておりました」


 サクソン州からの手配書によれば彼らは自ら名声を高めるためにスタンピードを起こし街をひとつ半壊させたそうだ。

 その時はまだ勇者は居なかったようだが手配書には首を跳ねた二人を含む計四人が手配されていた。

 叩けば余罪は他にも出て来そうだ。


「嘘よ、彼らは私と一緒に魔物の被害から村々を救ってたのよ酷いことするわけないじゃない」


「本当に貴方は目の前のことしか見えていないのですね、だから平気で大切な人間を裏切れる」


「私は裏切っていない」


「いえ、貴方は裏切った。幼馴染だった貴方を守ろうとしたタクミ様を」


「違う、違うもん。タッくんをイジメてたのはあの男で私は無理矢理、イヤイヤやらされていただけだもん」


 アリアは目を細めると芹奈の左手首を切り飛ばしす、同時に何度目か分からない悲鳴をあげる。


「巫山戯たことを言うたびに貴方の体を切り飛ばしていきます。考えなしな発言は止めたほうが宜しいですよ」


「うっ、どうしてこんな酷いことを……タッくん、助けてよこいつ貴方のメイドでしょう。どうして私に酷いことするの?」


 芹奈はどういう思考をしているのか、よりにもよって僕に助けを求めた。

 先程よく考えて発言するように言われたのにかかわらず。

 案の定、アリアに左腕を肘から切り飛ばされた。


「ぐぎゃああぁぁ」


 芹奈の耳障りな音がまた鳴り響く、見た目は成長していたが頭の方はあの時と変わらないらしい。


「貴方は裏切った。間違いありませんね」


「…………はい、私はタッくんを裏切りました」


「何故、タクミ様を裏切ったのですか?」


「それは、みんなが……ってあぎゃぁぁあ」


 懲りずに同じ主張を繰り返し周りに責任転嫁しようとする芹奈の右手を肘から切り落とす。


「何故あなたの様な人間が前世での幼馴染なのでしょう。時間を遡って転生出来るのなら必ずや私がお側に生まれ変わって真の幼馴染としてお守りするのに」


「違う、幼馴染は私だもん、タッくんの隣は私の……」


「はぁぁ、そのねじれた思考にはある意味畏怖を感じますが、それなら何故裏切ったのですか?」


「…………それは、もっと酷いことをタッくんにすると脅されて」


 それは初めて聞く情報だった。

 だからといって許すつもりも無いが。


「なるほど、貴方はタクミ様が酷いことをされないようにタクミ様に酷いことをしたと……」


「そうよ、タッくんの為にしたの、私だってそんなことしたくなかったけど、タッくんがもっと酷い目に合うのは見てられなかったから」


「ハァ、本当にどうしょうもない方なのですね。何故貴方のその行為が誰よりも、どんな事よりもタクミ様を1番傷つけると思わなかったのですか?」


「えっ??」


「理解出来ませんか? 私は分かりますよ……だって私も貴方と同じような立場でしたから」


 アリアの言葉に僕も頷く。

 僕と同じ学園に通っていた頃のアリアは芹奈と同じような状況に置かれていたが、決して僕を裏切ることはしなかったのだ。

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